【映画コラム】“日本のシンドラー”とは何者だったのか『杉原千畝 スギハラチウネ』

2015年12月5日 / 18:41
(C) 2015「杉原千畝 スギハラチウネ」製作委員会

(C) 2015「杉原千畝 スギハラチウネ」製作委員会

 第2次大戦中、リトアニアのカウナス領事館員としてユダヤ人難民にビザを発給し、多くの人の命を救った日本人外交官の生涯を描いた『杉原千畝 スギハラチウネ』が公開された。

 杉原の存在は、スティーブン・スピルバーグ監督が、ナチスドイツのホロコーストから多くのユダヤ人の命を救った実業家オスカー・シンドラーの姿を描いた『シンドラーのリスト』(93)の公開時に注目され、杉原は“日本のシンドラー”と呼ばれた。

 ところで、シンドラーは決して品行方正ではなく、ヒーロー的な人物でもなかったが、そうした人間が結果として善を施すという意外性が映画に深みを与えていた。

 対する本作は、杉原を単なる人道主義者としてではなく、混乱した世界を変えたいと夢想した理想家として描いている。また、前半の満州時代は、まるでスパイ映画のように、激しい戦いの真っただ中に身を置く敏腕諜報員として活躍させる。演じる唐沢寿明が英語のせりふを駆使して頑張っている。

 こうした虚実入り混じった描き方にはもちろん賛否があるだろうが、少なくとも、戦時下の日本にもこんな人物がいたのかという興味を引くことはできるし、もっと杉原のことが知りたいと思うきっかけにもなるだろう。

 また本作は、ポーランドでロケを行い、オランダ領事、杉原の運転手、カウナス領事館職員などを演じたポーランドの俳優たちが見事な存在感を示す。彼らのおかげで杉原を取り巻く群像劇として見ることができる。

 ドイツとの間に複雑な歴史を抱え、アウシュビッツ強制収容所があるポーランドの人々にとって、本作が描いたユダヤ人の受難は決して他人事とは思えなかったのだろう。また、日本人にとっても、本作は、シリアをはじめとする、現代の難民問題について考える契機となるはずだ。(田中雄二)


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