【映画コラム】見ながら元気になれる映画。観客賞を受賞したのも納得の『エール!』

2015年10月31日 / 16:00

 ろうあの家族と、彼らの生活を“通訳”として支える健常者の長女の自立を描いてフランスで大ヒットを記録した『エール!』が公開中だ。

(C) 2014-Jerico-Mars Films-France 2 Cinema-Quarante 12 Films-VendOme Production-Nexus Factory-Umedia(C) 2014-Jerico-Mars Films-France 2 Cinema-Quarante 12 Films-VendOme Production-Nexus Factory-Umedia

 フランスの片田舎で酪農を営むペリエ一家は、長女で高校生のポーラ(ルアンヌ・エメラ)以外は、父も母も弟も耳が聞こえない。だが彼らは臆することなく、明るくオープンな家庭生活を送っていた。

 そんなある日、ポーラに歌の才能があることを発見した音楽教師のトマソン(エリック・エルモスニーノ)が、彼女にパリの音楽学校のオーディションを受けることを勧める。ところがポーラの歌声を聴くことができない家族は猛反対。彼女は悩んだ末に夢を諦める決意をするが…。

 本作の最大の魅力は、映画初出演となったエメラの存在だ。テレビの勝ち抜きオーディション番組で注目され、歌手デビューを果たした彼女は、本作で第40回セザール賞の最優秀新人女優賞を受賞。その伸びのある歌声と健康的な姿態で一気に若手の注目株へと躍り出た。

 また、ろうあの両親を演じたフランソワ・ダミアンとカリン・ヴィアールの好演に加えて、トマソン役のエルモスニーノの怪演が見もの。こうした脇役の存在が映画を豊かにする。

 さて、本作の音楽教師が生徒の歌の才能を発見するという設定は『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』とも似ているが、家族の絆や若者の旅立ちなどをさわやかなタッチで描いた本作の方が明るく、見ながら元気になれる。毎年日本で開催されるフランス映画祭で、今年は本作がオープニングを飾り、観客賞を受賞したのもうなずけるというものだ。

 余談だが、ミシェル・サルドゥの“大人の恋愛歌”を高校生が合唱するあたりは、さすがに“恋の国”フランスだと思わされる。(田中雄二)


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