【映画コラム】ユニークなドキュメンタリー『美術館を手玉にとった男』と『キャノンフィルムズ爆走風雲録』

2015年11月21日 / 19:56
(C) Purple Parrot Films (C) Sam Cullman

(C) Purple Parrot Films (C) Sam Cullman

 どちらもユニークな人物の半生を描いたドキュメンタリー映画『美術館を手玉にとった男』と『キャノンフィルムズ爆走風雲録』が相次いで公開された。

 『美術館を手玉にとった男』は、有名な絵画の精巧な贋作(がんさく)を、神父や資産家をかたって、全米各地の美術館に30年間無償で“寄贈”し続けたマーク・ランディスの姿を追ったもの。

 ランディスが描いた贋作の出来があまりにも優れていたため 美術館側は見事にだまされる。だが彼は全く報酬を受け取っていないので犯罪にはならないというわけだ。

 「これは慈善行為だ」と全く悪びれないランディスのひょうひょうとしたキャラクターや贋作制作の舞台裏も興味をそそるが、本作にはもう一人、ランディスを追うことに執着する元美術館員のマシュー・レイニンガーという不思議な人物が登場する。レイニンガーは初めはランディスにだまされたことに憤っているが、ランディスについて調べるうちに、彼の持つ才能に魅了され、やがて絆すら感じるようになる。

 二人の関係は『レ・ミゼラブル』のジャン・ヴァルジャンとジャヴェール警部、『逃亡者』(93)のリチャード・キンブルとジェラード保安官補、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02)のアバグネイルとFBI捜査官にも通じる奇妙なものだが、人間心理の不可思議さやおかしみがにじみ出てくるようで、思わず笑わされてしまう。

 また「アート・アンド・クラフト=芸術と技術」という原題が示すように、本作を見ると、オリジナルと模倣の違いとは? 才能とは? といった疑問が浮かび、鑑賞眼や評価、価値感の持つあいまいさやゆがみについて考えさせられる。

 
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