【映画コラム】 ゲーム感覚で行われる戦闘の怖さを描いた『ドローン・オブ・ウォー』

2015年10月3日 / 17:03
(C) 2014 CLEAR SKIES NEVADA,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

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 9.11事件以降に始まったとされる米軍の対テロ戦争の実態を、実話を基に描いた衝撃のドラマ『ドローン・オブ・ウォー』が公開中だ。

 米空軍のトミー・イーガン少佐(イーサン・ホーク)は、ラスベガスの基地に設置されたコンテナの中で、モニターを見ながら無人戦闘機ドローンを遠隔操作し、戦地に赴かずして敵を爆撃。任務を終えると郊外のマイホームへ帰宅するという日々を送っている。

 だが、かつて優秀なパイロットとして実戦に参加していたトミーは、現在の任務に疑問を感じ、実戦への復帰を願い出るが…。

 本作を見て最も強く感じるのは、音も痛みもなく、ほとんど実感を伴わない、ゲーム感覚で行われる戦闘の怖さだ。と同時に、全く身の危険のない任務という軍人にとっては夢のような環境に身を置きながら、精神の均衡を崩していく主人公の姿を通して、『ハート・ロッカー』(08)や『アメリカン・スナイパー』(14)でも描かれた、戦場依存症や戦争後遺症の根深さも明らかにしていく。

 さらに「俺たちがやめたら、やつらもやめるのか」というせりふに象徴される、いたちごっこのような終わりのない戦いの空しさも語られるが、直接的な戦闘シーンがないだけに、これまでの戦争映画とは異質の感を抱かされる。

 監督のアンドリュー・ニコルは、人生の全てがテレビ番組として放送されていた男を主人公にした『トゥルーマン・ショー』(98)の脚本を書き、遺伝子操作で生まれた人間を描いた『ガタカ』(97)や『TIME/タイム』(11)などを監督してきた。

 SFと現実の境界を描くのが得意な監督で「ずっとテクノロジーと人間性との交わりや関係性に興味を持っている。それを描いていきたい」と語っているが、その姿勢は本作でも見事に貫かれている。そして、ハッピーエンドともアンハッピーとも取れる、含みを持たせたラストシーンがかえって見えない恐怖を助長する。(田中雄二)


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