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今回は、1月17日から公開される、事実を基にした映画を2本紹介しよう。どちらも、ドキュメンタリーとは違う、劇映画ならではの工夫や面白さが感じられる。まずはクリント・イーストウッド通算40作目の監督作品『リチャード・ジュエル』から。
1996年、アトランタオリンピック開催時に、爆発物を発見して多くの人命を救った英雄であるにもかかわらず、FBIやメディアに爆破テロの容疑者と見なされた実在の警備員リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)と弁護士のワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)の闘いを描く。
本作は、イーストウッド監督作品としては、最近の『アメリカン・スナイパー』(14)『ハドソン川の奇跡』(16)『15時17分、パリ行き』(17)『運び屋』(18)といった、事実を基にした物語の系譜に属する。
無名の人物が主人公ということで、素人が本人役を演じた『15時17分、パリ行き』の失敗が頭をよぎったが、今回はウォルター・ハウザー、ロックウェルをはじめ、ジュエルの母親役のキャシー・ベイツ、記者役のオリビア・ワイルド、FBI捜査官役のジョン・ハムなどがきっちりと演じて、映画に説得力を与えている。改めて俳優の力は大きいと感じさせられた。
さて、ジュエルが犯人でないことは最初から分かっているので、何を見どころとして2時間余をもたせるのかが勝負どころとなる。その点、イーストウッドは、事の経緯を淡々と描きながら、それぞれの人物像や事件の深部に迫っていく、という正攻法で勝負している。これこそが熟練の技だ。
悪人探しと、それに続く断罪は、魔女狩りの昔からあるが、今の世の中は、姿なき誹謗(ひぼう)中傷がまん延し、ジュエルのように、いつ被害者、あるいは加害者になってもおかしくはない。また、「結婚もせず母親と同居している太った男」「英雄願望のある男」などと、ジュエル(=他人)に勝手にレッテルを貼ったり、見た目で人を判断してしまったりする恐ろしさも、自戒の意味も含めて痛感させられた。89歳のイーストウッドに脱帽だ。