【週末映画コラム】伝統について考えてみる 歌舞伎役者として芸道に人生をささげた男『国宝』/京都愛の強過ぎる女性が引き起こす大騒動『ぶぶ漬けどうどす』
2025年6月6日
『国宝』(6月6日公開)

(C)吉田修一/朝日新聞出版 (C)2025映画「国宝」製作委員会
九州の任侠の家に生まれた喜久雄(黒川想矢/吉沢亮)は、15歳の時に抗争で父を亡くし天涯孤独の身となるが、彼の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主・花井半二郎(渡辺謙)が家に引き取る。
喜久雄は半二郎の跡取り息子の俊介(越山敬達/横浜流星)と兄弟のようにして育てられ、親友として、ライバルとして互いに高め合い、歌舞伎に青春をささげていく。
そんなある日、事故で入院した半二郎が自身の代役に俊介ではなく喜久雄を指名したことから、2人の運命は大きく変わっていく。
李相日監督が『悪人』(10)『怒り』(16)に続いて吉田修一の小説を映画化。任侠の家に生まれながら、歌舞伎役者として芸道に人生をささげた男の激動の人生を描く。
半二郎の妻・幸子を実際に梨園で生まれ育った寺島しのぶ、喜久雄の恋人・春江を高畑充希が演じた。脚本を奥寺佐渡子、撮影をチュニジア出身で『アデル、ブルーは熱い色』(14)を撮ったソフィアン・エル・ファニ、美術を『キル・ビル』(03)の種田陽平が担当した。
見る前は、正直なところ2時間55分という上映時間の長さを危惧していたのだが、心配は無用だった。
とにかく吉沢と横浜が素晴らしい。稽古に1年半を懸けたという2人の、美しさと壮絶さと狂気が入り混じった「二人藤娘」「二人道成寺」「曽根崎心中」といった舞台に圧倒される。そしてこの2人を映すカメラアングルやポジションの工夫、見事な照明や美術によって歌舞伎の舞台を映画で見せることに成功している。
また、2人の好演によって、部屋子ながら才能に恵まれた喜久雄、名門の御曹司ながら才能では喜久雄に劣る俊介というそれぞれの葛藤が示され、「歌舞伎で名を残すのに必要なのは才能か、血か」という命題が浮かび上がる。喜久雄は血筋が、俊介は才能がほしいのだ。
この映画のキャッチコピーは「その才能が、血筋を凌駕する」だが、認められるために神ではなく悪魔と取引をし、「守ってくれる血が俺にはないねん」と嘆く喜久雄の姿が切なく映る。そんな喜久雄の姿は部屋子出身ながら女形として一家を成した坂東玉三郎をほうふつとさせる。
女形という意味では、老いた女形の人間国宝を演じた田中泯もいいアクセントになっている。ラストの喜久雄の美しい「鷺娘」だけでも一見の価値ありだ。
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