【映画コラム】 映画の持つ力や良心を信じてみたくなる『スポットライト 世紀のスクープ』

2016年4月16日 / 16:05
Photo by Kerry Hayes (C)2015 SPOTLIGHT FILM, LLC.

Photo by Kerry Hayes (C)2015 SPOTLIGHT FILM, LLC.

 今年度のアカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した『スポットライト 世紀のスクープ』が公開された。

 2002年、米ボストン・グローブ紙の特集記事「スポットライト」のチームが、カトリック教会の神父たちによる児童への性的虐待を、教会が組織ぐるみで隠蔽(いんぺい)してきたスキャンダルを報じた。

 記者たちはいかにして教会というタブーに切り込み、真実を探り当てたのか。本作は彼らの取材の軌跡やチームプレーを丁寧かつテンポ良く再現している。

 彼らは新聞記者としての使命感を持ってはいるが、同時に特ダネ狙いの功名心もある。決して正義の使途というわけではない。彼らを突き動かすのはおぞましい事件への義憤の念だ。それが「本当はこういう記事を書かなければならないのだ」という劇中のせりふに象徴される“ジャーナリスト魂”へとつながっていく。そうした流れを、さすがは脚本賞受賞作という見事なストーリー展開で見せていく。

 そんな本作のもう一つの見どころは俳優たちの見事なアンサンブルだ。スポットライト・チームは、『ザ・ペーパー』(94)でも新聞記者役を演じ、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)で復活したマイケル・キートンがデスク役。後は、最近絶好調のマーク・ラファロとレイチェル・マクアダムス、渋い脇役のブライアン・ダーシー・ジェームズという少数精鋭部隊。彼らに上司役のジョン・スラッテリーとリーヴ・シュレイバー、そして弁護士役のスタンリー・トゥッチが絶妙に絡んでいく。

 また、脚本家出身のトム・マッカーシー監督は、実話を基に一級の社会派エンターテインメント映画に仕上げる手腕を発揮し、『セルピコ』(73)や『評決』(82)といったシドニー・ルメット監督の諸作やウォーターゲート事件を暴いた新聞記者を描いた『大統領の陰謀』(76)をほうふつとさせる一級の告発劇とした。

 こういう映画を見せられると、もう一度映画の持つ力やアメリカ映画の良心を信じてみたくなる。(田中雄二)


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