【映画コラム】久しぶりに『男はつらいよ』の味わいがよみがえった『家族はつらいよ』

2016年3月12日 / 17:11
(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

 山田洋次監督が約20年ぶりに撮った本格喜劇『家族はつらいよ』が公開された。

 結婚50年を迎えて、いきなり妻(吉行和子)から離婚を切り出された夫(橋爪功)、夫婦げんかが絶えない長男夫婦(西村雅彦、夏川結衣)と長女夫婦(中嶋朋子、林家正蔵)、ついに結婚を決意した次男(妻夫木聡)とそのフィアンセ(蒼井優)…。

 それぞれのエピソードを見せながら、全員が一堂に会して不満をぶつけ合う“家族会議”をクライマックスに、山田監督がこだわり続けてきた「やっかいだけどいとおしい」家族の姿が描かれる。

 本作は『東京家族』(13)と同じ8人の主要キャストを使って、全く別の家族を描いている。この試みが、まるでコインの裏表やパラレルワールドを見ているような面白さを生み出した。

 また『東京家族』は小津安二郎監督の『東京物語』(53)をモチーフにして作られただけに、多少硬くぎくしゃくした印象を受けたが、今回は監督や出演者たちもその縛りから解放され、一つの家族像を伸び伸びと描き、演じている。それが画面から伝わり、見ている方も楽しい気分になってくる。まるで古典落語を聴くような定番の、安心できる笑いに浸ることができるのだ。

 もちろんその面白さは山田監督お得意の会話劇としての妙味によるところが大きいし、軽いタッチの喜劇の中に身につまされるようなせりふを盛り込むあたりも監督の真骨頂だ。

 かつてスティーブン・スピルバーグは全く毛色の違う『ジュラシック・パーク』(93)と『シンドラーのリスト』(93)をほぼ同時期に撮って見る者を驚かせたが、80歳を越えた山田監督が本作と長崎の原爆というシリアスなテーマを扱った『母と暮せば』を間髪入れずに撮ったことも驚きに値する。

 バイオレンスもエログロもない、適度な毒気とほのぼのとした笑いの配合が魅力的な山田洋次の世界。本作では久しぶりに「男はつらいよ」シリーズの味わいがよみがえった。一つ年上のクリント・イーストウッド同様、山田監督にはまだまだ元気で映画を撮り続けてほしい。(田中雄二)


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