【映画コラム】無名の者たちの心意気や生きた証しを描いた『殿、利息でござる!』

2016年5月14日 / 19:39
(C) 2016「殿、利息でござる!」製作委員会

(C) 2016「殿、利息でござる!」製作委員会

 磯田道史の評伝集『無私の日本人』所収の短編を映画化した『殿、利息でござる!』が公開された。監督、脚色の中村義洋が、笑いあり涙ありの痛快娯楽時代劇として仕上げている。

 江戸時代中期、重い年貢の取立てや労役で疲弊した仙台藩の宿場町、吉岡宿。同地で造り酒屋を営む穀田屋十三郎(阿部サダヲ)は、知恵者の菅原屋篤平治(瑛太)から、藩に大金を貸し付け、その利息で町を救う案を聞き、実行を決意する。

 十三郎の呼び掛けに、私財を投げ打ち出資する町の有力者たち(西村雅彦ほか)。ところが、どケチで有名な十三郎の弟、浅野屋甚内(妻夫木聡)もなぜか参加を表明し…。

 阿部をはじめとする、にぎやかな面々の中で、妻夫木の抑制した演技が目を引く。後半の、実は甚内とその父(山崎努)は…という隠し球が生きるのも彼の演技のたまものだ。殿様役でゲスト出演したフィギュアスケートの羽生結弦選手もなかなかの演技を見せる。

 ところで、実話の映画化とはいえ、登場人物が根っからの善人ばかりではどこかうそっぽく見える。そこで本作は、出資者の中には、もうけ話と勘違いしたり、売名に利用しようと考えた者もいたとして、人物設定に幅を持たせているし、現代から見た当時の貨幣価値などの注釈が入るので、見る側も身近な問題として捉えることができる。

 また、庶民が支配者階級の武士に一矢報いる小気味好さ、己のことは二の次にして、他者のために尽くすという日本人の美徳などは、山本周五郎の世界をほうふつとさせるし、原作者の磯田が得意とする知られざる歴史の掘り起こしは、無名の者たちの心意気や生きた証しが明らかになり、深い感慨を与えてくれる。

 いずれにせよ、同じく磯田原作の『武士の家計簿』(10)や本作、あるいは近々続編が公開される『超高速!参勤交代』(14)などの製作は、衰退が叫ばれる時代劇の新たな可能性を示す流れとして、今後に期待を抱かせる。(田中雄二)


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