【映画コラム】再生をテーマにしたスピリチュアルなミステリー『追憶の森』

2016年4月30日 / 17:42
(C) 2015 Grand Experiment, LLC.

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 日本の青木ヶ原樹海を舞台に、ガス・ヴァン・サント監督が、マシュー・マコノヒーと渡辺謙の共演で描いたミステリー映画『追憶の森』が公開された。

 妻(ナオミ・ワッツ)を亡くし、彼女に対する罪の意識から自殺することを考えたアーサー(マコノヒー)は富士の樹海にやって来る。だが樹海の中で、出口を求めてさまようタクミ(渡辺)と出会い、彼を助けるうちに、アーサーの心境に変化が芽生え始める。

 本作は、樹海をさまよう二人の姿にアーサーの回想を織り交ぜる形で進行するが、その中に、アーサーのコート、タクミの妻と娘の名、岩に咲く花、水辺、楽園の階段、映画『巴里のアメリカ人』、童話『ヘンゼルとグレーテル』…といった謎の“ピース”がちりばめられている。

 一見、無関係と思われるこれらのピースが全てはまるラストシーンは、ミステリーの約束事である謎解きの快感を見る者に与えてくれるが、アーサーと妻のすれ違う姿を見ながら、夫婦や人間関係の難しさについて身に詰まされるところも少なくないし、スピリチュアル(霊的)な内容を含む点も、単なるミステリー物とは一線を画している。

 ところで、青木ヶ原樹海は本作のように自殺者が訪れる場所として語られることが多いが、実は富士山から流れ出た溶岩が焼け野原にした台地に、新たな木々が芽吹いて森となった“再生の地”でもある。脚本のクリス・スパーリングやヴァン・サント監督がそれを踏まえて物語を作ったとは考えにくいが、悩みや苦しみの果てに生への執着を描いた本作には、意外に適した場所だったとも言える。

 “再生”をテーマにした本作について、マコノヒーは「自分の人生哲学である“ジャスト・キープ・リビング=とにかく生き続けろ”にぴったり当てはまる映画だった」と語っている。(田中雄二)


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