【映画コラム】2時間48分を飽きさせないタランティーノの力業『ヘイトフル・エイト』

2016年2月27日 / 20:38
(C) MMXV Visiona Romantica, Inc. All rights reserved.

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 クエンティン・タランティーノ監督、脚本の密室ミステリー風の西部劇『ヘイトフル・エイト』が公開された。

 時は南北戦争後、舞台は山の上の雑貨店。吹雪で足止めを食らい、一夜を共に過ごすことになった訳ありの7人の男と1人の女による群像劇だ。

 賞金稼ぎのルース(カート・ラッセル)と賞金首の女ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)を乗せ、レッドロックに向かう駅馬車に、賞金稼ぎのウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)と新任保安官のマニックス(ウォルトン・ゴギンズ)が乗り込む。

 途中で猛吹雪に見舞われた彼らはミニーの雑貨店に立ち寄るが、そこには店主のミニーの姿はなく、留守番のメキシコ人ボブ(デミアン・ビチル)、絞首刑執行人のモブレー(ティム・ロス)、元南軍将軍のスミザーズ(ブルース・ダーン)、カウボーイのゲージ(マイケル・マドセン)がいた。

 前半は8人の人物紹介をしながら、意外な相関関係を明らかにしていく。やがて彼らは密室で互いを罵倒し、だまし合い、殺人事件にまで発展する。後半は時系列を崩して事件の意外な真相を映し出す。これは『レザボア・ドッグス』(91)や『パルプ・フィクション』(94)と同じタランティーノお得意の手法だ。

 タランティーノ映画の常連であるジャクソン、ラッセル、ロス、ダーン、マドセンに加えて、紅一点のジェイソン・リーが終始血まみれの怪演を見せ、アカデミー賞の助演賞候補となった。

 撮影監督のロバート・リチャードソンは、ウルトラパナビジョン70という横長画面を使い、雪に覆われた広大な自然と、複数の人物が同時にフレーム内に収まる舞台劇的な要素を見事に混在させた。

 音楽はタランティーノのたっての希望で、大ベテランのエンニオ・モリコーネが担当。懐かしい『エクソシスト2』(77)のテーマ曲も流れる。また、美術を種田陽平が担当し、細部に凝ったミニーの雑貨店を現出させた。 

 これらのスタッフ、キャストを指揮して映画を作る手腕、2時間48分を飽きずに見せ切るタランティーノのストーリーテラーとしての才能は素晴らしい。好き嫌いはあろうが、相変わらずの下品な描写やバイオレンス過多も、もはやタランティーノ印の証しと言える。(田中雄二)


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