【映画コラム】憎悪が生み出す負のパワーの強さを描いた『セッション』

2015年4月18日 / 16:33
(C) 2013 WHIPLASH, LLC All Rights Reserved.

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 当時28歳のデイミアン・チャゼルが監督し、2014年のサンダンス映画祭でグランプリ&観客賞を受賞。その後、各映画賞でも旋風を巻き起こした『セッション』が17日から公開された。

 名門音楽大学に入学したドラマー志望のニーマン(マイルズ・テラー)は、フレッチャー教授(J・K・シモンズ)のバンドにスカウトされる。だが彼を待ち受けていたのは、完璧な演奏を求めるフレッチャーによる狂気のレッスンだった。ニーマンは精神的に追い詰められていく。

 鬼教官役で“怪演”を見せたシモンズがアカデミー賞で助演賞を受賞した本作。新人をしごく鬼教官といえば『愛と青春の旅だち』(82)や『フルメタル・ジャケット』(87)で描かれた軍隊式の訓練が思い浮かぶが、本作のフレッチャーは厳格な職業意識からではなく私憤で生徒たちをしごいているようにも見える。

 また、かつて日本で一世を風靡(ふうび)した“スポ根”の世界とも似て非なるものがある。例えば『巨人の星』の主人公・星飛雄馬を厳しくしごく父・一徹の心の奥には愛があったが、フレッチャーがニーマンら生徒たちに示す態度や言葉は、決して愛のむちとは呼べない理不尽なものだからだ。

 片やスティックを持つ手のまめが破れ、血が噴き出してもなおドラムをたたき続けるニーマンの姿も尋常ではない。その姿は、格上の相手に殴られ、血みどろになりながらも、上昇志向の強さ故に立ち向かっていくボクサーの姿とも重なる。フレッチャーが言葉でパンチを繰り出せば、ニーマンはドラムで打ち返す。本作は師弟関係というよりも憎悪が生み出す負のパワーの強さを描いているのだ。

 最後にフレッチャーとニーマンは指揮者とドラマーとして舞台で“一騎打ち”をする。果たして音楽は、憎悪を超えた何かを二人にもたらすのかが見どころとなる。全編にすさまじいばかりのパワーと熱気がみなぎり、不穏な緊張感が漂う本作。音楽を扱った映画なのに見終わった後は格闘技の試合を見たような疲労感が残る。まさに体感する映画だと言っても過言ではない。(田中雄二)


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