【映画コラム】 伝統的な“SF精神”が息づく『シグナル』

2015年5月9日 / 18:31
 (C) 2014 Signal Film Group LLC All Rights Reserved

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 2014年のサンダンス映画祭で話題を集めたSFスリラー『シグナル』が15日から公開される。

 マサチューセッツ工科大学の学生ニック(ブレントン・スウェイツ)らは、謎のハッカーを追ううちに“何か”と接触して感染し、秘密の隔離施設に監禁される。やがて体に異変が生じ、施設の存在にも疑問を抱いた彼らは脱出を試みるが…。

 本作は、表向きは、人間と宇宙生命体との融合を描いた『第9地区』(09)、超能力を手に入れた高校生を描いた『クロニクル』(12)といった今風のSF映画のイメージをほうふつとさせるところがあるが、監督2作目となるウィリアム・ユーバンクの狙いは別のところにあったようだ。

 ユーバンク自身が「1960年代にロッド・サーリングが案内役を務めていたSFテレビドラマ『ミステリーゾーン』の大ファン。だからあのドラマと同じように、主人公の周りで不可解で摩訶不思議なことが起こり、主人公はもちろん観客も“一体どうなっているんだ”と感じるような映画を作りたいと思った」と語っているからだ。

 「ミステリーゾーン」は、60年代当時はドラマに描くことがタブーとされた社会的なメッセージや人種問題を、SFの形を借りて表現した名物シリーズ。その姿勢は後にサーリングが脚色を担当した『猿の惑星』(68)にも生かされた。粗削りながら不思議な魅力を感じさせる本作にも、ラストのどんでん返しを含めて、そうした伝統的な“SF精神”が息づいているのだ。

 USAトゥデイ紙はユーバンクの才能を「デビッド・リンチ、スタンリー・キューブリックの再来」と評したが、無機質な施設の様子などは、むしろジョージ・ルーカスの監督デビュー作『THX-1138』(71)を想起させた。また本作は、低予算でもアイデア次第で良質のSF映画を作ることが可能なことをあらためて証明したとも言える。新人監督の今後に期待が膨らむ。(田中雄二)


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