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日本時間の4月26日に授賞式が行われる今年のアカデミー賞では、動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)製作の映画が大量にノミネートされた。その中の一本で、作品賞をはじめ、最多10部門で候補となった『Mank/マンク』を紹介しよう。
この映画の主人公は、オーソン・ウェルズ製作・監督・主演の名作『市民ケーン』(41)で、アカデミー賞脚本賞を受賞した“マンク”ことハーマン・J・マンキーウィッツ。デビッド・フィンチャー監督が父ジャックの遺稿を映画化した。
アルコール依存症に苦しむ脚本家のマンク(ゲイリー・オールドマン)は、ニューヨークの劇壇でワンダーボーイ(神童)の異名を取り、鳴り物入りでハリウッドにやって来た24歳のオーソン・ウェルズ(トム・バーク)から脚本の執筆を依頼される。
マンクは、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(チャールズ・ダンス)をモデルにした物語を書きながら、自分の過去や、ハーストの愛人で女優のマリオン・デイビス(アマンダ・セイフライド)、MGMの社長ルイス・B・メイヤー(アーリス・ハワード)、同社プロデューサーのアービング・タルバーグ、脚本家仲間のベン・ヘクト、ジョン・ハウスマン、弟で脚本家のジョセフ・L・マンキーウィッツなど、さまざまな人々とのかかわりを思い出していく。
フィンチャー監督は、モノクロ画面、モノラル音声に、脚本の体裁、近景から遠景までピントを合わせたパンフォーカス、フェードイン(溶明)とフェードアウト(溶暗)、映像が重なりながらカットが変わるディゾルブなどの技法を用いて、『市民ケーン』前後の時代の再現を試みているが、何だか“物まね”を見ているような違和感を覚えた。また、現在と過去(回想)が行ったり来たりするので、見ていて落ち着かないところがある。
特に、1934年のカルフォルニア州知事選挙で、ハーストと映画業界が手を結び、社会主義運動家で作家のアプトン・シンクレアを落選させようと一大キャンペーンを張った様子を執拗(しつよう)に入れ込んだことで、かえって話が散漫になったのは否めない。
つまり、『市民ケーン』そのものについてや、当時のアメリカ社会やハリウッドの事情を知らないと、正直なところ見るのがつらい映画なのだ。それ故、一般的な観客には不向きだと思われるが、配信系のNetflixならば、こうした趣味性の強い映画を製作し、流通させることも可能になる。その点では、映画興行の新たな可能性を示す作品の一つではある。