【映画コラム】ディケンズの古典を今風に映画化した『どん底作家の人生に幸あれ!』
2021年1月21日
チャールズ・ディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』を、『スターリンの葬送狂騒曲』(17)のアーマンド・イアヌッチ監督(イタリア系のスコットランド人)が映画化した『どん底作家の人生に幸あれ!』が、1月22日から公開される。
ディケンズの原作は、イギリスでは、この物語の登場人物にあやかって名付けられたロックバンド、ユーライア・ヒープが存在するほど有名な古典だ。
自分の周囲にいる変人たちについてメモを取り、空想を楽しむ少年デイヴィッドは、優しい母と家政婦と共に幸せに暮らしていたが、暴力的な継父によって工場へ売り飛ばされてしまうが…。
本作の原題は「デイヴィッド・コパフィールドの個人史」。山あり谷ありの人生を送る孤児の成長物語という点では、主人公のデイヴィッドは、同じくディケンズの『大いなる遺産』のピップや『オリバー・ツイスト』のオリバーとも通じるキャラクターだ。
ただ、デイヴィッドが作家となり、自分を取り巻く変人たちを、空想と現実を交錯させながら描く、という点では、ディケンズの自伝的な要素が最も強いという。
本作がユニークなのは、デイヴィッドを演じるデブ・パテルはインド系、他にも黒人や中国系の俳優が重要な役を演じているところ。従って、風景や設定は19世紀のイギリスなのに、多国籍なイメージを抱かされるが、そこに、この古典を今映画化した意図が込められているとも思える。
この原作は過去に何度も映画化され、中でも『孤児ダビド物語』(35)が有名だが、ディケンズの原作を真面目に映画化すると、重苦しくなるという。随所にブラックユーモアやオフビートな笑いを配し、モンティ・パイソンの世界すらほうふつとさせるこの映画は、そうした面も変えてみたかったのだろう。また、こういう映画は、むしろ原作を知らずに見た方が楽しめるのかもしれないとも思った。(田中雄二)
-
2021年1月14日
【映画コラム】老人が主役の2本の映画『43年後のアイ・ラヴ・ユー』と... -
2020年12月31日
【映画コラム】コロナ禍の2020年、“頑張って公開された映画” -
2020年12月16日
【映画コラム】女性の強さに加えて、葛藤を描き込んだ『ワンダーウーマ... -
2020年12月4日
【映画コラム】複雑なクライムサスペンスを見事に99分でまとめた『サイ... -
2020年11月13日
【映画コラム】ヒロインを中心としたユニークな群像劇『おらおらでひと... -
2020年10月24日
【映画コラム】ストリップ劇場を舞台にしたラブストーリー『彼女は夢で... -
2020年10月15日
【映画コラム】“現代的な江戸の人情話”に仕上げた『みをつくし料理帖』 -
2020年10月8日
【映画コラム】ハリウッド映画とは一線を画する、新たな映画の真骨頂『... -
2020年9月18日
【映画コラム】ジョージ・ルーカス「音は感動を伝える。映画体験の半分... -
2020年8月23日
【映画コラム】コロナ禍の今、改めて人間同士の絆や信頼について考えさ... -
2020年7月30日
【映画コラム】根も葉もある絵空事の集大成 大林宣彦監督の遺作『海辺... -
2020年7月4日
【映画コラム】大人たちの“遊び心”を刺激する『一度も撃ってません』 -
2020年6月27日
【映画コラム】さらばランボー! その歴史に思いをはせる完結編『ラン... -
2020年6月13日
【映画コラム】老境のドヌーブの姿が感慨深く映る『アンティークの祝祭』 -
2020年6月5日
【映画コラム】一足早くシーズン開幕! 野球映画のベストナインを組ん... -
2020年5月28日
【映画コラム】「エール」古山裕一のモデル、古関裕而が鎮魂の思いを込... -
2020年5月21日
【映画コラム】Jリーグの再開を願いつつ、サッカー映画を見よう! 『... -
2020年5月2日
【映画コラム】今こそ、「生きていることの幸せ」を描いた映画を見よう... -
2020年4月23日
【映画コラム】今こそ、「生きていることの幸せ」を描いた映画を見よう...