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『アスファルト・シティ』(6月27日公開)
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犯罪と暴力が横行するニューヨークのハーレム。クロス(タイ・シェリダン)は医学部への入学を目指し勉学に励む一方で救急救命隊員として働き始める。
ベテラン隊員のラット(ショーン・ペン)とバディを組んだクロスは厳しい実地指導を受けるが、さまざまな犯罪や薬物中毒、移民やホームレスの終わりなき問題に直面し、自分の無力さに打ちのめされる。
そんな中、クロスは徐々にラットと打ち解けていくが、自宅で早産した女性からの要請で出動した際に、ラットの新生児への処置をめぐって窮地に立たされる。
フランス出身のジャン=ステファーヌ・ソベール監督が、元救急救命士のシャノン・バークの実話に基づく小説を映画化。過酷な救急医療現場で繰り広げられる生と死の極限のやり取りにリアルに迫った。キャサリン・ウォーターストン、マイケル・ピット、元プロボクサーのマイク・タイソンらが共演。
主にクロスの視点からの描写や、時には親子や師弟のようにも見えるクロスとラットの関係性がユニークなこの映画は、23年製作なので少し前のものになるが、なぜすぐに日本で公開されなかったのかも分かる気がする。救急医療現場の様子があまりにもリアルでグロテスクなので、思わず目を背けたくなるような描写が続くからだ。
とはいえリアルな分、救急救命隊員たちの仕事の過酷さが浮き彫りになり、これでは彼らの精神が崩壊してもおかしくはないと思わされる。『バックドラフト』(91)では消防士たちの屈折や苦悩が描かれていたが、この現場はそれ以上と言っても過言ではない。事実、最後に救急救命士の自殺が多いというという字幕が出る。
先日終了した「PJ ~航空救難団~」というドラマの中で、内野聖陽演じる主人公の教官が「俺たちは天使だ」と言っていたが、この映画でもクロスの部屋に天使の絵が貼られ、彼のジャケットに翼が刺繡されているなど、暗喩を思わせるものがあった。
確かに、極限状態で人の命を救う彼らの仕事は、ある意味天使に当たるのかもしれないが、その代償はあまりにも大きいということ。救急救命隊員たちに感謝しながら、改めて彼らの仕事を見直すきっかけにもなる映画だ。
(田中雄二)