【週末映画コラム】ダイヤモンド・プリンセス号の内部で一体何が起こっていたのか『フロントライン』／オール尾道ロケで映画化したSF青春ミステリー『リライト』

『フロントライン』（6月13日公開）

(C)2025「フロントライン」製作委員会

　2020年2月3日、乗客乗員3711人を乗せた豪華客船が横浜港に入港した。香港で下船した乗客に新型コロナウイルスの感染が確認されており、船内では100人以上が症状を訴えていた。

　日本には大規模なウイルス対応を専門とする機関がなく、災害医療専門の医療ボランティア的組織「DMAT」が急きょ出動することに。彼らは治療法不明のウイルスを相手に自らの命を危険にさらしながらも、乗客全員を下船させるまで闘い続けた。

　日本で初めて新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」での実話を基に、未知のウイルスに最前線で立ち向かった医師や看護師たちの闘いをオリジナル脚本で描く。

　対策本部で指揮を執るDMAT指揮官の結城を小栗旬、厚生労働省の役人・立松を松坂桃李、現場で対応に当たるDMAT隊員・真田を池松壮亮、医師の仙道を窪塚洋介が演じた。『劇場版コード・ブルー　ドクターヘリ緊急救命』（18）の増本淳が企画・脚本・プロデュースを手掛け、関根光才が監督を務めた。

　キャスト陣の熱演に支えられて、5年前のコロナ禍の発端となったダイヤモンド・プリンセス号の内部で一体何が起こっていたのか、また医療をはじめとする関係者たちはどのような行動を取ったのかという知られざる事実が明かされる。

　もちろん医療関係者の献身ぶりには頭が下がるばかりだが、特に印象的だったのは松坂が演じた官僚の姿だった。この手の映画では、とかく官僚はクールで敵のように描かれるケースが多いが、今回は熱い思いを持ってことに当たる姿が描かれていた。その代わりと言ってはなんだが、マスコミが悪のように描かれるシーンが目に付いた。

　ただこの映画も、実話を基にしてはいるが、それを脚色した“劇映画”であるということを忘れてはならないだろう。医療関係者や官僚を名もなきヒーローのように描き、マスコミを敵のように描くのは劇映画としては分かりやすくて盛り上がるが、それは“ある一部”を拡大して描いているに過ぎない。こうした社会派の映画はどの立場や視点から描くかで全く違ったものになるからだ。

　われわれがコロナ禍から学んだことの一つに、一方的な主張や偏った情報に踊らされてはいけないということがある。だからこの映画も、うわべの感動だけではなく、その奥に潜むものを考えながら見るべきものなのだ。