「せわしなく動き回る田畑と、落ち着きがあって重心の低い河野の対比が面白い」桐谷健太(河野一郎)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年10月6日 / 20:50

 1943(昭和18)年、太平洋戦争に突き進む日本は、戦地に学生たちを送り出す出陣学徒壮行会を実施する。その会場に選ばれたのは、オリンピック開催を夢見て嘉納治五郎(役所広司)が建設したはずの神宮外苑競技場。皮肉な巡り合わせとなったその場には、スポーツを愛しながらも、国会議員としてオリンピック返上を主張した河野一郎の姿もあった…。戦後の東京オリンピックまで、主人公・田畑政治(阿部サダヲ)の良きライバルとして活躍する河野役の桐谷健太が、役に込めた思いを語ってくれた。

河野一郎役の桐谷健太

-第38回では大雨の中、神宮外苑競技場から学徒出陣していく若者たちの行進を見送る河野の姿が印象的でした。演じた感想は?

 大雨の中、見るに堪えなくなった河野が一人で帰っていくところへ、追ってきた田畑が「これで満足かね、河野先生」と言葉を投げつけるわけです。でも当然、満足なわけはないし、戦争をよしと考えているわけでもない。本人の中では、かなりの葛藤があったんだろうな…と。そんなことを考えながら演じていました。田畑と河野の関係を描いた中でも、特に印象深いシーンです。

-国会でオリンピック返上について演説する場面(第37回)は、どんな気持ちで演じましたか。

 河野にも、本当はオリンピックを開催したい気持ちがある。でも、すでに戦争が始まっていて、それどころではない。そこには、今の僕たちには理解できないぐらいの思いがあったはずです。だから、テレビの国会中継をまねしたりするのではなく、河野自身が政治家として正しいと考えることを、腹から思い切り声を出して言おうという気持ちで臨みました。

-河野一郎を演じるために、どのような準備をしましたか。

 事前に資料をたくさん読ませていただきました。でも、その中には「周りを顧みず、突き進んでいくような人だった」と書いてあるものもあれば、息子の洋平さんが「父にはきちんと周りの人たちを気遣う部分もあった」と語っているものもありました。だから、読むたびにインスピレーションが変わっていく一方で、史実とはまた別の、脚本としての空気感もある。そういう部分をすり合わせつつ、どう魅力的に見せていくかについて、ものすごく考えました。

-河野一郎は、どんな人物だったとお考えでしょうか。

 先日、河野一郎さんの息子の洋平さんや孫の太郎さんの秘書を務められてきた方にごあいさつする機会がありました。そのときに伺ったのが、いろいろな議員さんたちが「廊下ですれ違ったとき、風圧のようなものを感じる人が2人だけいた。その1人が田中角栄さんで、もう1人が河野一郎さん」と話していたという逸話。それほどの人物だったんだなと。秘書の方が気を使って、「桐谷さんも、そのぐらい存在感がありますよ」とおっしゃってくれたので、「ありがとうございます」と素直に喜んでおきました(笑)。

-実在の人物を演じる上で心掛けていることは?

 声や体格を含め、「似ているかどうか」はあまり意識しないようにしました。そこを気にし始めると、何もできなくなってしまうので。それよりも、「いだてん」の世界観の中で、生きた河野一郎として存在できるようにしようと。実際の史実と「いだてん」の世界観はイコールではないので、仮に本物の河野一郎さんがタイムスリップして、ご本人を演じたとしても、違和感が生じる可能性がありますから。そういう意味で、実在の人物ということはあまり意識せず、「いだてん」の世界観の中で生きることを一番に心掛けています。

-河野と田畑の関係で印象に残ったことがあれば。

 2人はもともと、同じ新聞社で働いていたわけですが、せわしなく動き回る田畑に対して、落ち着きがあって重心の低い河野という対比は、とても面白いと思いました。その一方で、お互いにスポーツを愛している点は共通しているので、オリンピックでメダルを取ったと聞けば、抱き合って喜ぶ。そんな2人の関係はすごくいいな…と。新聞社を辞めて政治家を目指すことを決意したときは、「新聞なんて無力だ。代議士になって、村の用水路一つ直した方が、よっぽど世のためになる」と田畑に告げるわけですが、その言葉は政治家・河野一郎を演じる上で、僕の基盤になっています。

-田畑役の阿部サダヲさんと共演した感想は?

 僕が初めて宮藤官九郎さん脚本の作品に出演させていただいたのが、25歳のときの「タイガー&ドラゴン」(05)。阿部さんも出演していましたが、当時はお芝居で絡む機会はほとんどありませんでした。それが14年たって今回、お互いにスポーツを愛するライバルでありつつ、切磋琢磨(せっさたくま)していく良き仲間という役柄で共演することができた。とてもうれしかったです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

千賀健永、頭が良くてゲームが上手な弟に「かわいい復讐心はありました」【インタビュー】

ドラマ2025年7月7日

 トリンドル玲奈が主演するドラマ「レプリカ 元妻の復讐」が、7日23時6分からテレ東系で放送がスタートする。本作は原作・タナカトモ氏、作画・ひらいはっち氏による同名漫画を映像化。整形して別人として生きる主人公・伊藤すみれ(トリンドル)が、人 … 続きを読む

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

 第42 回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の小説を原作にした鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』が、7月4日公開となる。浪費家の母(河井青葉)に代わってアルバイトで生活を支えながら、奨学金で大学に通う主人公・宮田陽彩が、過酷な境遇を受 … 続きを読む

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

Willfriends

page top