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1943(昭和18)年、太平洋戦争に突き進む日本は、戦地に学生たちを送り出す出陣学徒壮行会を実施する。その会場に選ばれたのは、オリンピック開催を夢見て嘉納治五郎(役所広司)が建設したはずの神宮外苑競技場。皮肉な巡り合わせとなったその場には、スポーツを愛しながらも、国会議員としてオリンピック返上を主張した河野一郎の姿もあった…。戦後の東京オリンピックまで、主人公・田畑政治(阿部サダヲ)の良きライバルとして活躍する河野役の桐谷健太が、役に込めた思いを語ってくれた。
大雨の中、見るに堪えなくなった河野が一人で帰っていくところへ、追ってきた田畑が「これで満足かね、河野先生」と言葉を投げつけるわけです。でも当然、満足なわけはないし、戦争をよしと考えているわけでもない。本人の中では、かなりの葛藤があったんだろうな…と。そんなことを考えながら演じていました。田畑と河野の関係を描いた中でも、特に印象深いシーンです。
河野にも、本当はオリンピックを開催したい気持ちがある。でも、すでに戦争が始まっていて、それどころではない。そこには、今の僕たちには理解できないぐらいの思いがあったはずです。だから、テレビの国会中継をまねしたりするのではなく、河野自身が政治家として正しいと考えることを、腹から思い切り声を出して言おうという気持ちで臨みました。
事前に資料をたくさん読ませていただきました。でも、その中には「周りを顧みず、突き進んでいくような人だった」と書いてあるものもあれば、息子の洋平さんが「父にはきちんと周りの人たちを気遣う部分もあった」と語っているものもありました。だから、読むたびにインスピレーションが変わっていく一方で、史実とはまた別の、脚本としての空気感もある。そういう部分をすり合わせつつ、どう魅力的に見せていくかについて、ものすごく考えました。
先日、河野一郎さんの息子の洋平さんや孫の太郎さんの秘書を務められてきた方にごあいさつする機会がありました。そのときに伺ったのが、いろいろな議員さんたちが「廊下ですれ違ったとき、風圧のようなものを感じる人が2人だけいた。その1人が田中角栄さんで、もう1人が河野一郎さん」と話していたという逸話。それほどの人物だったんだなと。秘書の方が気を使って、「桐谷さんも、そのぐらい存在感がありますよ」とおっしゃってくれたので、「ありがとうございます」と素直に喜んでおきました(笑)。
声や体格を含め、「似ているかどうか」はあまり意識しないようにしました。そこを気にし始めると、何もできなくなってしまうので。それよりも、「いだてん」の世界観の中で、生きた河野一郎として存在できるようにしようと。実際の史実と「いだてん」の世界観はイコールではないので、仮に本物の河野一郎さんがタイムスリップして、ご本人を演じたとしても、違和感が生じる可能性がありますから。そういう意味で、実在の人物ということはあまり意識せず、「いだてん」の世界観の中で生きることを一番に心掛けています。
2人はもともと、同じ新聞社で働いていたわけですが、せわしなく動き回る田畑に対して、落ち着きがあって重心の低い河野という対比は、とても面白いと思いました。その一方で、お互いにスポーツを愛している点は共通しているので、オリンピックでメダルを取ったと聞けば、抱き合って喜ぶ。そんな2人の関係はすごくいいな…と。新聞社を辞めて政治家を目指すことを決意したときは、「新聞なんて無力だ。代議士になって、村の用水路一つ直した方が、よっぽど世のためになる」と田畑に告げるわけですが、その言葉は政治家・河野一郎を演じる上で、僕の基盤になっています。
僕が初めて宮藤官九郎さん脚本の作品に出演させていただいたのが、25歳のときの「タイガー&ドラゴン」(05)。阿部さんも出演していましたが、当時はお芝居で絡む機会はほとんどありませんでした。それが14年たって今回、お互いにスポーツを愛するライバルでありつつ、切磋琢磨(せっさたくま)していく良き仲間という役柄で共演することができた。とてもうれしかったです。
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