「今までにないぐらい、宮藤官九郎さんの心の熱い部分が出ている気がします」三宅弘城(黒坂辛作)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年9月15日 / 20:50

 1936(昭和11)年のベルリンオリンピックで、日本代表としてマラソンに出場した朝鮮出身の孫基偵選手が、金栗四三(中村勘九郎)以来の悲願だった金メダルを獲得。このとき、孫選手と3位の南昇竜選手が履いていたのが、金栗が東京のハリマヤ製作所の主・黒坂辛作と共に開発したマラソン用の足袋だった。そのハリマヤには、新たに増野りく(杉咲花)や小松勝(仲野太賀)が訪れるようになり、新しい時代を迎えつつある。長きにわたって日本のマラソンを支えてきた黒坂辛作役の三宅弘城が、撮影の舞台裏を語ってくれた。

黒坂辛作役の三宅弘城

-第35回、ベルリンオリンピックでハリマヤの足袋を履いた朝鮮出身の孫選手が、マラソンで金メダルを取りましたね。

 辛作さんにとっては、喜びもひとしおだったに違いありません。自分が作った足袋を履いた選手が金メダルを取ると言う、金栗さん以来の悲願がかなったわけですから。「日本人だろうが、朝鮮人だろうが、ドイツ人だろうが、アメリカ人だろうが、俺の作った足袋を履いて走った選手はちゃんと応援するし、勝ったらうれしい」というせりふに、その気持ちが表れています。僕も、今まで描かれてきたオリンピックの場面の中で、一番感動しました。

-かつてハリマヤには、金栗さんや美川(秀信/勝地涼)くんが暮らしていましたが、時代が変わって、今は次の世代の増野りくや小松勝たちが訪れるようになりました。演じる上で、気持ちの変化はありますか。

 辛作さんは、ハリマヤに来る人にしか会いませんが、いろいろな人が集まってくるので、ハリマヤちょっとした憩いの場や公民館のような場所になっていますよね。今では辛作さんも年を取った分、以前ほどの勢いはなくなり、落ち着いた感じになってきました。いずれにしても自分より若い人たちなので、親心のようなものは、金栗さんがいたときから変わっていません。ただ、小松勝に関しては、金栗さんの弟子なので信用しつつも、「またちょっと違うタイプのおかしなやつが来たぞ」とは思ったんでしょうね(笑)。

-第35回の冒頭には、五りん(神木隆之介)が1961(昭和36)年のハリマヤを訪れる場面もありました。辛作もさらに年を取っていましたが、演じてみた感想は?

 感慨深かったです。辛作さん、長生きしていろいろなものを見ているんだな…と。ずっと足袋しか置いていなかった店の様相も、大きく変わっていたので、だいぶ時間がたっていることを実感しました。まるで歴史の生き証人になった気分です(笑)。

-黒坂辛作という人をどのように見ていますか。

 典型的な下町の職人ですよね。本当は優しいんだけれど、照れ屋な性格が邪魔して、口の利き方が乱暴になったり…。僕も13年ほど東京の葛飾区で暮らし、ああいう“べらんめえ調”のおじさんたちの中で多感な時期を過ごしたので、とても共感できます。自分の仕事にプライドを持っている職人という点では、僕も似た部分がありますし。役者としても、監督や演出家からのオーダーに対して、「できない」とは言いたくないんですよね。極力、注文には応えたいし、無理な場合でもなんとか近づけるように、頭をひねってお芝居を考えることもありますから。そういうところは、辛作さんにも通じるなと。

-金栗四三役の中村勘九郎さんの印象は?

 とても心のある役者さんです。一緒にやっていると、お芝居に感動させられたり、こっちを乗せてくれたりするので、楽しいです。撮影のときは何度かリハーサルを繰り返しますが、本番になるとそれ以上のすごいものを見せてくれますし…。舞台では、同じことを何度も繰り返さなければならないので、それに合わせた芝居を探っていくことになりますが、映像の場合、本番は一発勝負。歌舞伎の経験が長い勘九郎さんも、そういう映像の特徴を理解して、思う存分、楽しんでいるような気がします。

-田畑政治役の阿部サダヲさんとは親しい間柄だと思いますが、この作品で改めて受けた印象は?

 「この人、こんなにすごかったっけ…!?」と(笑)。田畑役にぴったりですが、せりふを覚えるとき、台本を声に出して読まないという話を聞き、改めて感心しました。阿部くんも宮藤(官九郎/脚本家)さんも、お互いのことをよく分かっている。だから、宮藤さんは阿部くんがこう演じるだろうと思って台本を書き、それを阿部くんが越えてくるという、ものすごいバトルが2人の間で繰り広げられているのではないでしょうか。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

二宮和也「子どもたちの映画館デビューに持ってこいの作品です」『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』【インタビュー】

映画2025年5月17日

 テレ東系で毎週月~金、朝7時30分から放送中の乳幼児向け番組「シナぷしゅ」の映画化第2弾。番組のメインキャラクター「ぷしゅぷしゅ」と相棒「にゅう」が、バカンスで訪れた「どんぐりアイランド」を舞台に繰り広げる冒険をオリジナルストーリーで描き … 続きを読む

【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

映画2025年5月16日

『サブスタンス』(5月16日公開)  50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによってレギュラー番組を降ろされたことから、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、禁断の再生医療「サブスタンス= … 続きを読む

新原泰佑、世界初ミュージカル化「梨泰院クラス」に挑む「これは1つの総合芸術」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月16日

 世界中で大ヒットを記録した「梨泰院クラス」が、初めてミュージカル化される。主人公のパク・セロイを演じるのは小瀧望。日本・韓国・アメリカのクリエーターが集結し、さまざまな人種が混じり合う自由な街・梨泰院で権力格差や理不尽な出来事に立ち向かう … 続きを読む

グレッグ・ターザン・デイビス「とにかく、ただ純粋に面白い映画を撮ることだけが、自分たちに与えられたミッションでした」『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』【インタビュー】

映画2025年5月15日

 トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクション「ミッション:インポッシブル」シリーズの第8作『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』が、5月23日の公開に先駆けて17日から先行上映される。前作『ミッション:インポッシブル/デッ … 続きを読む

研ナオコ、認知症のおばあちゃん役で9年ぶりの映画主演「主演女優賞を狙ってます(笑)」岡﨑育之介監督「研さんの人生の奥行きがにじみ出た」『うぉっしゅ』【インタビュー】

映画2025年5月12日

 人生に迷いながらソープ嬢として働く若い女性・加那と、彼女に介護されることになった認知症の祖母・紀江の交流を明るくポップなタッチで描いたユニークな映画『うぉっしゅ』が絶賛公開中だ。  本作で、加那を演じる若手注目株の中尾有伽と共に、紀江役で … 続きを読む

Willfriends

page top