「日本中が心から応援する気持ちが『前畑がんばれ!』という言葉になった。とてもすてきなことだと思いました」上白石萌歌(前畑秀子)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年9月22日 / 20:50

 第36回、1936(昭和11)年のベルリンオリンピックで、ついに日本初の女性金メダリストが誕生。実況アナウンサーによる「前畑がんばれ!」の絶叫と共に、時代を超えて語り継がれる前畑秀子の二百メートル平泳ぎだ。80年以上の時を超えて甦った歴史的瞬間に、当時の人々と同様、胸を熱くした視聴者も少なくないはず。この名場面の中心となったのが、前畑秀子役の上白石萌歌。7キロの増量を含む入念な準備で挑んだ役に込めた思いを語ってくれた。

前畑秀子役の上白石萌歌

―第36回では、前畑秀子のベルリンオリンピック金メダルの場面が再現されました。撮影した感想は?

 無我夢中でした。私は水泳をずっとやってきましたが、思っていた以上に平泳ぎが奥深く、難しくて。泳ぎをいかにうまく見せるかということで頭がいっぱいで、他のことを考える余裕はなかったです。周りの外国の選手役の方の中には水泳で好成績を残した方もいて、体格はもちろん、ひとかきの伸びやパワーも、私とは段違い。おかげで当時、前畑さんが感じていたであろう恐怖心を私自身も感じることができ、本当にオリンピックで泳いでいるような気持ちになりました。

―日本オリンピック史上に残る名場面を演じてみて感じたことは?

 前畑さんには、相当な思いがあったんだろうな…と。前畑さん自身は前回のロス五輪の銀メダルで満足し、その後は普通の生活に戻って結婚しようと考えていました。でも、五輪後に「なぜ金メダルを獲ってくれなかったんだ」という思いがけない言葉を浴びせられた。かなり悔しい気持ちになったはずです。だから、いったん自分の願望を捨ててまで、4年間、血のにじむような思いで練習を重ねてベルリンに臨んだ。金メダルの裏には、そんな事情があったわけですから。

―ご自身も水泳経験者とのことですが、前畑さんの泳ぎはいかがでしたか。

 前畑さんの泳ぎは、全く別物でした。私は今まで伸びを意識して泳いでいましたが、当時の映像を見ると、前畑さんは瞬発力でガンガン前に進んでいく。ものすごく力強い印象を受けました。飛び込む速さも他の選手とは全然違うな…と。そういう映像も、泳ぎの参考にさせていただきました。

―今回、体重を7キロ増量して役作りに取り組んだそうですね。

 体からのアプローチというのは初めてで、今までとは全く違いました。半年くらい時間を頂き、水泳の練習を続けながら、食生活を改善していきました。サポーターの方に管理してもらいながら、一日五回食事を取り、夜中に脂質の多いパスタやお菓子を食べ…。ずっと胃の中に食べ物がある状態は想像以上に大変で、軽い食事をしたくなることもありました。ただ、時間を掛けるほど、自分が前畑さんに近づいていくような気がして、肉体からのアプローチは、セリフやその人の生き様を、今まで以上に自分のものとして落とし込めるものなんだと実感しました。

―他にはどんな準備を?

 出演が決まった後、前畑さんの出身地である和歌山県の橋本市を訪ねました。前畑秀子資料展示館で「前畑がんばれ!」の実況を録音したレコードを聞かせてもらいましたが、当時のレコードは片面で3~4分が限度。その時間に収まるスピードで泳いでいたことを考えたら、改めてすごいな…と。肉体の面では、日焼けサロンに通ったり、お化粧で肌を黒くしたりして、なるべく当時の方の肌の色に近づけるように準備しました。ただ、オリンピックのシーンの野外ロケで肌が焼け、途中から「メイク不要では…?」と思うくらい黒くなりましたが(笑)。そういう点も、ご本人に近づけたような気になり、うれしかったです。

―実際に「前畑がんばれ!」を聞いて、どんなことを感じましたか。

 「“がんばれ”の他に何かないの?」というセリフもありましたが、今回「いだてん」で描かれている前畑さんは、周りから「がんばれ」しか言われないような状況。普通だったら応援になる言葉も、マイナスにしか受け止められないくらい追い詰められていたんだな…と。私自身は「がんばれ」という言葉を、今までプラスにしか受け取ったことがなかったので、前畑さんの気持ちには想像を絶するものがありました。ただ、オリンピック本番では、日本中が前畑さんの泳ぎに注目し、心から応援する気持ちがそのまま言葉になった。それはとてもすてきなことだと思いました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

【映画コラム】実話を基に映画化した2作『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』『栄光のバックホーム』

映画2025年11月29日

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』(12月5日公開)  太平洋戦争末期の昭和19年。21歳の日本兵・田丸均(声:板垣李光人)は、南国の美しい島・パラオのペリリュー島にいた。漫画家志望の田丸はその才能を買われ、亡くなった仲間の最期の雄姿を遺族 … 続きを読む

氷川きよし、復帰後初の座長公演に挑む「どの世代の方が見ても『そうだよね』と思っていただけるような舞台を作っていきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月29日

 氷川きよしが座長を務める「氷川きよし特別公演」が2026年1月31日に明治座で開幕する。本作は、氷川のヒット曲「白雲の城」をモチーフにした芝居と、劇場ならではの特別構成でお届けするコンサートの豪華2本立てで贈る公演。2022年の座長公演で … 続きを読む

Willfriends

page top