「ヒトラーをどう撮るべきか、悩みました」大根仁(演出)「東京がオリンピックを返上する流れを、できるだけ正確に」訓覇圭(制作統括)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年9月27日 / 18:55

 日本のオリンピック史上、最も有名なベルリンオリンピックの「前畑がんばれ!」のシーンが再現された第36回。日本中の声援を受けたその力強い泳ぎに心動かされた視聴者は多いに違いない。その一方で、ナチスが主導する強い重苦しい空気やヒトラーの登場に、複雑な思いも抱いたのではないだろうか。時代的にも、1936(昭和11)年のベルリン大会以後、日本は戦争の時代に突入していくこととなる。果たして今後、「日本人とオリンピックの物語」はどうなっていくのか。第36回の演出を担当した大根仁と制作統括の訓覇圭が、第36回に込めた思いや、今後の展望などを語ってくれた。

前畑秀子役の上白石萌歌

-第36回、前畑秀子(上白石萌歌)のレースシーンを演出した感想は?

大根 水泳は、メダルを取るほどの成績なので、スピードがあって力強く泳いでいるように見せる必要があります。背景が変化し、汗もかく上に役者の表情が作りやすい第1部(第24回まで)のマラソンとは違い、水泳は基本的に同じコースを泳いでいる上に汗はなく、表情も分かりにくい。だから、どう見せたらいいのか、非常に苦労しました。

-前畑を演じる上白石さんの力強い泳ぎが印象的でした。

大根 ものすごく頑張っていました。上白石さんは、出演が決まったときから「自分の線の細さでは、メダリストに見えない」と、体重を7キロ増やし、水泳の特訓をして、日焼けサロンに通ったりと、水泳選手に見えるような体作りからやってくれましたし…。現場では、撮影しながら僕もひたすら「頑張れ、頑張れ」と応援していました(笑)。

-その一方、ベルリンはナチスのプロパガンダ色が強く出ていました。そのあたり、演出で心掛けたことは?

大根 ベルリンは「ナチスの大会」と言われているほどプロパガンダ色の強い大会です。その様子を記録した映画『民族の祭典』(38)には、ヒトラーの姿もしっかり映っている。そういう状況の中で、ヒトラーをどう撮るべきか、悩みました。この時代のヒトラーは、国民から圧倒的な支持を得て首相に就任しているので、戦後生まれの僕らから見た「恐怖の象徴」というイメージで描くのも違うだろうと。そこで、ナチスの監修者の方から「当時のヒトラーは人気があった」というお話を伺い、「人間味のあるヒトラー」を目指しました。田畑(政治/阿部サダヲ)がヒトラーと対面する場面は創作ですが、いかに説得力を持たせるか、非常に気を使いました。

-第36回を大根さんと井上(剛)さんの共同演出にした理由は?

大根 ベルリン大会が終わり、東京パートに移った終盤以降は井上さんの担当です。ああいう軍人が出てくるような会議の場面は、慣れているNHKの演出家の方がうまく撮ってくれるだろうと。第36回のラストから直結する第37回が井上さんの担当だったこともあり、僕の方からお願いしました。

-これまでも、お二人の共同演出が何度かありましたが、その狙いは?

大根 1話の中に複眼的な演出が入ってくると、今までにないものが出来上がるのではないかと。「共同演出をやろう」という話は、僕が「いだてん」に参加したときから井上さんとしていました。本当は「このシーンはこの人」というように、それぞれの演出家が得意分野を撮って一つにするようなこともやりたかったのですが、演出家が3人以上いると、現場も混乱するだろうと。その結果、僕と井上さんで3回ほどやりましたが、中でも第36回は、コメディー要素あり、女性スポーツの描写もあり、時代の波に飲み込まれていく大河ドラマらしい重苦しい空気も描くことができ、最も僕なりの理想に近い形になりました。

-ナチスやヒトラーを描く上で心掛けたことは?

訓覇 ムッソリーニもそうですが、ヒトラーとのやり取りをどう描くかについては、具体的な会話の記録が残っていないので、不安がないわけではありません。でも、それを理由に避けて通るようなことはしたくありませんでした。日本の映像作品に今までどれぐらいヒトラーが登場しているのかは分かりませんが、少なくとも「いだてん」では、きちんと役者に演じてもらうことを大事にしたいと。だから、はっきり「こうだった」とは言えませんが、残っている事実の中から、僕らなりに「恐らくこうだったのでは…?」と推測して、フィクションとしてこの時代と正面から向き合いたいと思いました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

高橋一生、平山秀幸監督「アクションはもちろん、人間ドラマとしてもちゃんと娯楽性を持っている作品に仕上がっていると思います」「連続ドラマW 1972 渚の螢火」【インタビュー】

ドラマ2025年10月20日

 1972年、本土復帰を間近に控えた沖縄で、100万ドルの米ドル札を積んだ現金輸送車が襲われ行方を絶った。琉球警察は本土復帰特別対策室を編成。班長には、警視庁派遣から沖縄に戻って来た真栄田太一が任命される。班員は、同級生でありながら真栄田を … 続きを読む

オダギリジョー「麻生さんの魅力を最大限引き出そうと」麻生久美子「監督のオダギリさんは『キャラ変?』と思うほど(笑)」『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』【インタビュー】

映画2025年10月17日

 伝説の警察犬を父に持つオリバーとそのハンドラーを務める鑑識課警察犬係の青葉一平(池松壮亮)のコンビ。だが、なぜか一平だけにはオリバーがだらしない着ぐるみのおじさん(オダギリジョー)に見えており…。  この奇想天外な設定と豪華キャストが繰り … 続きを読む

【映画コラム】初恋の切なさを描いた『秒速5センチメートル』と『ストロベリームーン 余命半年の恋』

映画2025年10月17日

『秒速5センチメートル』(10月10日公開)  1991年、春。東京の小学校で出会った遠野貴樹(上田悠斗)と転校生の篠原明里(白山乃愛)は、互いの孤独を癒やすかのように心を通わせていくが、卒業と同時に明里は栃木に引っ越してしまう。  中学1 … 続きを読む

大谷亮平「お芝居の原点に触れた気がした」北斎の娘の生きざまを描く映画の現場で過ごした貴重な時間『おーい、応為』【インタビュー】

映画2025年10月16日

 世界的に有名な天才浮世絵師・葛飾北斎。その北斎と長年生活を共にし、自らも絵師“葛飾応為”として名をはせた娘・お栄の生きざまを描いた『おーい、応為』が10月17日から全国公開となる。劇中、北斎(永瀬正敏)の弟子の絵師“魚屋北渓”として知られ … 続きを読む

黒崎煌代 遠藤憲一「新しいエネルギーが花開く寸前の作品だと思います」『見はらし世代』【インタビュー】

映画2025年10月15日

 再開発が進む東京・渋谷を舞台に、母の死と残された父と息子の関係性を描いた『見はらし世代』が10月10日から全国公開された。団塚唯我のオリジナル脚本による長編デビュー作となる本作で、主人公の蓮を演じた黒崎煌代と父の初を演じた遠藤憲一に話を聞 … 続きを読む

Willfriends

page top