ドラマを支えるVFXの舞台裏は「日本では今までやってこなかったような新しい試み」尾上克郎(VFXスーパーバイザー)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年10月6日 / 21:00

 東京でのオリンピック開催を返上し、日本は太平洋戦争に突入。終わりの見えない戦争へと向かう中、オリンピックに懸ける田畑政治(阿部サダヲ)や金栗四三(中村勘九郎)たちの思いはどうなるのか…? ますます目が離せなくなってきた大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」だが、この作品に欠かせないのがVFX(視覚効果)だ。本作では全編に渡ってVFXを活用し、明治から昭和の風景をリアルに再現。第38回のクライマックス、出陣学徒壮行会の舞台となった神宮外苑競技場もVFXで作り上げたもの。その指揮を執るのは、「シン・ゴジラ」(16)などを手掛けたVFXスーパーバイザーの尾上克郎。チーフディレクターの井上剛、VFXプロデューサーの結城崇史も同席し、映像制作の舞台裏を語ってくれた。

出陣学徒壮行会の舞台となった神宮外苑競技場

-第38回、出陣学徒壮行会の舞台となった神宮外苑競技場はVFXで作り上げたそうですね。

尾上 第23回で初登場しましたが、神宮外苑競技場自体が今は存在しない上に、資料もあまり残っていません。だから、過去の幻影を追い掛けるようなことから始めなければならず、最初は頭を抱えました。とりあえず、撮影用に地面が土の競技場を探してもらい、何とか準備をスタートしましたが、現地には地面以外そのまま使える部分はほとんど何もない状態なので、スタンドや建物などをCGで加えることになりました。

-撮影現場との連携も大変そうですね。

尾上 自由に撮ってもらいたいと思う反面、あまりにも自由に撮られると後で困っちゃうことも多いので、「せめて、カメラは動かさずに撮影してください」と、一応、釘は刺しておくんですが、映像が上がってくると、思いっきり動いていて(笑)。「なんでこんなに動いてるんですか!」とVFXの作業やってくれる人たちからは愚痴を言われながら(笑)、日々作業を進めているところです。

-「いだてん」におけるVFX作業の難しい点は?

尾上 毎週毎週、ものすごい量の作業をこなさなければいけないことでしょうか。街に出ると、時代にそぐわなくて、絶対に映ってはいけないものが映り込んでしまいます。まずそれを、全て消さなければなりません。例えば熊本の金栗さんの実家などは、周囲の風景はそのまま使えても、屋根瓦が時代に合わず、CGでわらぶき屋根に入れ替えるような作業が必要になります。さらに、街の中を金栗さんらが走る場面も、撮影用のオープンセットは長い道路でも70メートルぐらいの距離しかないので、その奥の風景を追加したり…。目立たない部分ですが、そういう膨大な作業を確実にこなしていくのが、一番大変です。

-VFXが使われているのは、屋外で撮影した映像だけでしょうか。

尾上 スタジオで撮影した映像も、VFXで加工しているところも多いです。例えば窓の外の風景。これまでは白く飛ばし気味に明るくするだけで済みましたが、「いだてん」では大河史上初めて4KHDRという高画質なフォーマットを採用したため、ブラインドのわずかな隙間から見える外の様子も細部まで見えなければ不自然に感じてしまいます。そのため、窓外の風景も別に造って合成しなければなりません。そういう地味な作業も、今まで以上に増えています。

-映画と比べたときの作業の難しさは?

尾上 求められるクオリティーの高さとスピード感のバランスでしょうか。映画の場合、準備段階での試行錯誤や仕上げにかけられる時間が、ある程度あるんですが、今回はそういう余裕がほとんどありません。撮ったらすぐに、試行錯誤をやりながら次々とVFXの作業に入る…ということの繰り返しです。一見、映画と同じように見えるかもしれませんが、スピード感や作業手順も含めて、映画と全く違った考え方で進めなければならないです。ただ、スタッフも回数を重ねて経験を積んだ分、作業スピードやクオリティーは確実に上がってきていると思います。

-近現代を舞台にした作品でVFXを使うに当たって、時代劇と異なる難しさは?

尾上 映像が残っていることです。いわゆる時代劇の場合、本物を見た人もいないし、写真もありません。でも、映像資料が豊富に残っている近現代は、時代考証が簡単な反面、うそをつくことができません。でも、本物通りにやってもドラマとして成立しないので、程よく味つけをしていかなければならない。そのバランスが、とても難しいです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

稲垣吾郎「想像がつかないことだらけだった」ハリー・ポッターの次は大人気ない俳優役で傑作ラブコメディーに挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月13日

 稲垣吾郎が、2026年2月7日から開幕するPARCO PRODUCE 2026「プレゼント・ラフター」で傑作ラブコメディーに挑む。本作は、劇作、俳優、作詞、作曲、映画監督と多彩な才能を発揮したマルチアーティスト、ノエル・カワードによるラブ … 続きを読む

DAIGO「クリスマス気分を盛り上げてくれる作品なので、『パーシーのクリスマス急行』にぜひ乗車してください」『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』【インタビュー】

映画2025年12月12日

 イギリスで最初の原作絵本が誕生してから80周年を迎えた人気児童向けアニメ「きかんしゃトーマス」の劇場版『映画 きかんしゃトーマス サンタをさがせ!パーシーのクリスマス急行』が12月12日から全国公開された。シリーズ初のクリスマスムービーと … 続きを読む

高橋克典「これは吉良の物語でもあるのだと感じていただけるような芝居をしたい」 堤幸彦「『忠臣蔵』は、演劇的に言えば1丁目1番地的な作品」 舞台「忠臣蔵」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月10日

 元禄時代に実際に起こった仇(あだ)討ちを題材に歌舞伎などで取り上げられて以来、何度もドラマ化、映画化、舞台化されてきた屈指の名作「忠臣蔵」が、上川隆也主演、堤幸彦演出によって舞台化される。今回、吉良上野介を演じるのは、高橋克典。高橋はデビ … 続きを読む

生田斗真が驚きの一人二役!「最初から決まっていたわけではありません」制作統括・藤並英樹氏が明かす舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月8日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。謎の絵師“写楽”が、蔦重の下で歌麿(染谷将太)ら当 … 続きを読む

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

Willfriends

page top