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撮影ではなかなか接点がありませんが、初めてご一緒させてもらったとき、とても気軽に接してくださいました。最初は物静かな印象でしたが、話し始めたら落語が大好きらしく、「古今亭の温かい雰囲気がいいよね」などと話をしてくれました。高座に上がる場面も見学させていただきましたが、客席のエキストラの方たちだけを撮る場合でも、そのためだけに小ばなしを披露するんです。自分は一切映らないのに。それを見て、これこそ本当の芸人だな…と。僕の場合、自分がやらなければいけない部分を覚えるのに精いっぱいで、とてもそんな余裕はありませんから。
阪神淡路大震災を題材にした「未来は今 ~10years old, 14years after~」(09)や「その街のこども」(10)を作った井上さんと「モテキ」の大根さん、この2人との出会いは、僕の映像に関わる人生の中でとても大きなものです。いずれも一緒に作ったという手応えのある作品で、2人をとても信頼しています。さらに当時、大根さんがブログで井上さんの作品を高く評価していたので、「この2人なら合うはず」と思って、僕が「3人で食事をしましょう」と誘いました。
ある日突然、井上さんと大根さんに呼び出されたんです。そこで、大根さんがNHKで大河ドラマのディレクターをやると聞いて驚き、さらにチーフディレクターは井上さんだと。実は、大河ドラマは撮影期間が長いことなどもあり、今まで避けてきたところがありました。でも今回は、この2人から「やらないか」と誘われた以上、断るわけにはいかないな…と。その時点で「やるしかない」と覚悟を決めました(笑)。
先ほども言ったように、志ん生の映像は晩年のものが幾つか残っている程度で、戦前の評価は人によってまちまちです。「よかった」と言う人もいれば、「うまいけど、面白くない」と言う人もいる。真逆のカチッとした落語で同時代に人気を集めた桂文楽との対比で「文楽の落語は楷書、志ん生は草書」とも言われていました。でも本来、志ん生が憧れていたのは草書ではなく、文楽や師匠の円喬のような楷書の落語。そういうことまで考え合わせると、これからどう演じていけばいいのか、悩んでいるところです。今演じている若い頃は、下手でもまだ許されますが、年を経るごとにうまくなっていかなければいけませんから(笑)。
(取材・文/井上健一)
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