「孝蔵のパートは『志ん生が落語を語っているかのように、ポップに』と監督たちと話し合いました」森山未來(美濃部孝蔵)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年4月28日 / 20:50

 ストックホルムオリンピックでの敗北を糧に、金栗四三(中村勘九郎)はマラソンの強化に向けて動き始める。一方、四三と同じ時代を生きる人物として狂言回し的に登場するのが、後の“落語の神様”古今亭志ん生こと美濃部孝蔵だ。酒に酔って初高座に上がり、大失敗した揚げ句、修行に出た旅先で無銭飲食をして警察に捕まるなど、その波瀾(はらん)万丈な生きざまも物語の見どころとなっている。そんな孝蔵を躍動感たっぷりに演じる森山未來が、熱演の裏に込められた思いを語ってくれた。

美濃部孝蔵役の森山未來

-第16回で孝蔵は、旅先の牢獄で師匠・橘家円喬の死を知ることになりました。円喬役の松尾スズキさんと共演した感想は?

 正直、緊張しました。松尾さんは素晴らしい作家であり、演出家であり、役者です。一見、高圧的な雰囲気はないものの、近寄りがたさを感じる部分もある。その一方で、愛情ある一面も持っている。円喬と孝蔵の関係性にとっては、それが非常によかったな…と。だから、円喬の死を知るシーンでは、自然に松尾さんのことが思い浮かび、心の中に温かいものがスッと入ってきました。

-後に“落語の神様”古今亭志ん生となる孝蔵を演じるお気持ちは?

 志ん生は、ラジオやレコードの音源、テレビの映像などもある程度残っています。ただ、それは全て60~70代ぐらいに差し掛かった戦後の姿。戦前の様子については、よく分かっていません。自分で語った話もあるにはあるのですが、はなし家なので話が盛られているんです(笑)。例えば、改名の回数はそのときによってまちまちだし、自分の生まれた年もまちまち。「円喬に弟子入りした」というのも、本人が言っているだけで、実は違うのではないか、という話もあるぐらいで…(笑)。そんな状況なので、本人の話と戦前の姿を知る人の言葉から推測するしかない。だから、半分は架空の人物、半分は史実にある人物を演じているような感覚です。

-金栗四三や田畑政治という主人公がいる中で、孝蔵の役割をどのように捉えていますか。

 金栗四三と田畑政治(阿部サダヲ)という2人の主人公がいて、同時代の生き証人として狂言回し的なポジションを与えられているのが孝蔵。全体を俯瞰して見るナレーションの役割もありますが、軸となる物語を背負っているわけではありません。そういう意味では、孝蔵を巡るエピソードの面白さに乗っかっていけばいいのかな…と思いながら演じています。

-孝蔵を巡るハチャメチャなエピソードには、毎回笑ってしまいます。

 ただ、面白いと言っても、それは志ん生の口を通して語られるから面白く聞こえるだけで、実際はものすごく凄惨(せいさん)なひどい人生だったのではないかと思うんです。とはいえ、この物語の中で、孝蔵の存在は一つのアクセントになっています。そういう意味では、孝蔵のパートをリアルにやってしまうと、その役割が果たせません。だから、「志ん生が落語を語っているかのように、ポップにしたほうがいい」ということは、最初に監督たちとも話し合いました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

早見沙織「プレデターの新しい魅力をこの映画から感じていただけると思います」『プレデター:バッドランド』【インタビュー】

映画2025年11月19日

 未熟故に一族を追われた若きプレデターのデクは、生存不可能とされる最悪の地「バッドランド」に追放される。デクはその地で謎のアンドロイドの少女ティアと出会う。「プレデター」シリーズ中、初めてプレデター自身を主人公に据えて描いた『プレデター:バ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】「ユミの細胞たち」の原作者、ウェブトゥーン作家イ・ドンゴン

インタビュー2025年11月17日

 韓国文化の“今”を再構築し続けるKカルチャー。今回は、デジタル空間で物語を紡ぐウェブトゥーンの世界に焦点を当てる。平凡な会社員ユミの頭の中で繰り広げられる細胞の物語――。2015年に連載を開始した「ユミの細胞たち」は、全512話で32億ビ … 続きを読む

尾上眞秀「お母さんやおばあちゃんが喜んでくれました」寺島しのぶの長男が舘ひろしとの共演で映画初出演『港のひかり』【インタビュー】

映画2025年11月14日

 日本海沿岸の小さな漁師町を舞台に、元ヤクザの漁師・三浦と目の見えない少年・幸太という、年の離れた孤独な2人の絆を描くヒューマンドラマ『港のひかり』が、11月14日から全国公開中だ。  主演に舘ひろしを迎え、『正体』(24)の俊英・藤井道人 … 続きを読む

『物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家の物語』(7)神々がすむ土地を語る

2025年11月14日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼玉田永教と神道講釈  銭湯の湯け … 続きを読む

ハリウッド・リメイク決定!インド発ノンストップ・アクション!「日本の皆さんにも楽しんでいただけるはず」ニキル・ナゲシュ・バート監督『KILL 超覚醒』【インタビュー】

映画2025年11月13日

 40人の武装強盗団が、ニューデリー行きの特急寝台列車を襲撃! 刀を手に乗客から金品を奪う強盗団のリーダー、ファニ(ラガヴ・ジュヤル)は、大富豪タークルとその娘トゥリカ(ターニャ・マニクタラ)を人質に取り、身代金奪取をもくろむ。だがその列車 … 続きを読む

Willfriends

page top