「僕らなりに楽しめる歴史ドラマを作りたい。第8回は生田斗真くんが圧巻です」井上剛(チーフ演出)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年2月23日 / 14:57

 放送開始から2カ月が経過した大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。2月24日放送の第8回で、いよいよ史上初の日本代表となった金栗四三(中村勘九郎)と三島弥彦(生田斗真)が、オリンピックの開催地ストックホルムへと旅立つ。序盤の山場に向けて物語が転機を迎えるに当たり、チーフ演出の井上剛氏に第8回の見どころ、作品に込めた思いなどを聞いた。

チーフ演出の井上剛氏

-四三と三島たちがストックホルムに向けて旅立つ第8回の見どころは?

 駅で三島と家族の別れのシーンがありますが、このときの生田斗真くんの芝居は圧巻です。実は、生田くんや白石加代子(弥彦の母・三島和歌子役)さんたち、三島家の面々が全員そろった撮影は、このときが初めてだったんです。それまでほとんど一緒に芝居をしたことがなく、「母上」、「弥彦」と呼び合うのも初めて。それでも、ものすごくいいシーンになりました。改めて「役者ってすごいな…」と感じた撮影でした。

-大観衆の見送りを受けて旅立つようですね。

 注目してほしいのが、群衆の様子です。日の丸やのぼりを掲げた人たちが集まり、壮行会のようになった新橋駅から、四三と三島が送り出されていきます。そういう風景が登場するのは今回が初めてですが、この後、何度も出てくるようになります。ただ、それが戦争の時代に入っていくと、次第に違った風景に見えてくる…。そういうふうに、この先に向けた伏線にもなっているので、歴史ドラマとして、その点も楽しんでいただけたら。また、駅のホームの場面は大井川鉄道の千頭駅をお借りして撮影しましたが、ホームと客車以外は、ほぼ全てVFXで作り込んでいます。改めて、VFXの力を思い知らされました。

-続く第9回(3月3日放送)から、『モテキ』(11)、『バクマン。』(15)などを手掛けた映画監督の大根仁さんが演出陣に加わりますが、NHKの外部から大根さんが参加することになった経緯は?

 もともと、大根さんを僕に紹介してくれたのは森山未來(美濃部孝蔵役)くんなんです。僕が撮った「その街のこども」(09)と、大根さんの『モテキ』の両方に森山くんが出ていたことが縁で。それ以来、もう10年ぐらいの付き合いになります。大根さんはNHKの番組をものすごくよく見ている方で、僕たちとは違ったカラーや得意分野を持っている。そのあたりのチューニングがうまくハマれば、面白いことになるのではないかと思って今回、声を掛けさせていただきました。

-それでは改めて、チーフ演出として、この作品が目指すものを教えてください。

 大河ドラマに限ったことではありませんが、歴史を描く作品は、いつも幕末あたりで終わってしまいます。でも、そこで止まらず、もう少し先へ進んで、僕らなりに楽しめる歴史ドラマを作ってみたい。それが最初に思ったことです。見たことのない時代を調べた上で、「これが自分たちの通ってきた道だ」という地平を切り開きたいと。

-確かに、戦国時代や江戸時代に比べて、明治以降の歴史についてはあまり広く知られていませんね。

 高校の頃、日本史の授業が3学期になると教科書の途中で終わってしまい、「なぜ僕たちは今ここにいるんだろう?」という部分が弱いと感じていました。この作品は、明治の終わりから東京オリンピックの1964年まで、約50年の物語になります。明治、大正、昭和と、わずか半世紀で日本はこんなに激変したんだということを、僕らの肌感覚で取り入れていきたいと考えています。

-その物語を作り上げる脚本家・宮藤官九郎さんの印象は?

 頭の良さに驚くばかりです。膨大な資料を全て頭にたたき込み、そこから取捨選択して、「こんなお話どうでしょう」と並べてくる。それをわずか2、3日でやってくるんです。そのスピードの速さと言ったら…。もちろん、そこから直したり、いろいろなアイデアを盛り込んだりしていくのですが、どうやってこんな話を思い付くんだろうと。

-もう少し詳しく教えてください。

 例えば、幾つかの資料を参考に、それを膨らませてキャラクターを作っていくわけですが、その後、いろいろ調べてみると、あながち間違ったものにはなってはいない。それは、嘉納治五郎(役所広司)さんのような有名人だけでなく、資料が残っていない美川(秀信/勝地涼)くんのような人でも同じ。まるで予知能力です。そういう宮藤さんの筆があるから、無名の人たちばかりなのに、役者さんはものすごくやりやすい。あそこまでキャラクターを描き込んでいく力は、本当にすごいなと。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

織山尚大、芸能活動10周年を迎え「今のこの年齢で演じる意味がある」 舞台「エクウス」で3年ぶりの主演【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月29日

 映画『うちの弟どもがすみません』やドラマ『リベンジ・スパイ』など、数々の映画やドラマ、舞台で活躍する織山尚大の3年ぶりの主演舞台となる「エクウス」が1月29日から上演される。本作は、実際に起きた事件を基に描かれた、ピーター・シェーファーに … 続きを読む

【映画コラム】「2025年映画ベストテン」

映画2025年12月28日

 今回は、筆者の独断と偏見による「2025年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。 【外国映画】  2025年公開の外国映画を振り返った時に、今年の米アカデミー賞での受賞作は最近の映画界の傾向を象徴するようで興味深いもの … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】家族の情緒が国境を越える、俳優ムン・ソリが語る「おつかれさま」ヒットの理由

ドラマ2025年12月26日

 今年のヒットドラマ、Netflixシリーズ「おつかれさま」。子どもから親へと成長していく女性の人生とその家族を描き、幅広い世代から支持され大きな話題を呼んだ。IU(アイユー)との二人一役で主人公エスンを演じたムン・ソリに、ドラマの振り返り … 続きを読む

田中麗奈「こじらせ男の滑稽で切ない愛の行方を皆さんに見届けていただきたいと思います」『星と月は天の穴』【インタビュー】

映画2025年12月24日

 脚本家としても著名な荒井晴彦監督が、『花腐し』(23)に続いて綾野剛を主演に迎え、作家・吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』が12月19日から全国公開された。過去の恋愛経験から女性を愛することを恐れながらも愛されたい願望をこ … 続きを読む

天海祐希、田中哲司、小日向文世、でんでん、塚地武雅「12年の集大成を見届けてください!」大ヒットシリーズ、ついに完結! 劇場版「緊急取調室 THE FINAL」【インタビュー】

映画2025年12月23日

 2014年1月にスタートしたテレビ朝日系列の大ヒットドラマ「緊急取調室」。たたき上げの取調官・真壁有希子が、可視化設備の整った特別取調室で取り調べを行う専門チーム「緊急事案対応取調班(通称:キントリ)」のメンバーとともに、数々の凶悪犯と一 … 続きを読む

Willfriends

page top