【インタビュー】『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』安田顕「完成した映画を見たら、今まで以上に『母親を大事にしたい』という気持ちが湧いてきました」

2019年2月22日 / 14:54

 心優しいけれどちょっと頼りない漫画家志望の青年サトシと、がんを患った母親との日々、そして最愛の母から驚くべき贈り物が届く…という実話を温かな笑いと涙でつづった『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』が2月22日から全国順次ロードショーとなる。原作者・宮川サトシ氏の体験に基づく実話を描いた同名のエッセイ漫画を映画化した本作で、主人公のサトシを演じたのは「下町ロケット」(15・18)など、数々の作品で活躍する安田顕。母親役の倍賞美津子と共演した感想、自身の母親に対する思いなどを聞いた。

主人公のサトシを演じた安田顕

-原作を読んだ上で出演を決めたそうですが、そのときに感じた作品の魅力は?

 親の死というのは誰にでも訪れるものですが、宮川サトシさんの原作漫画はその視点が独特で、ユーモアにあふれている。だから、悲しい出来事ではあるけれど、くすっと笑えるところがあるんです。しかも、そこに人の気持ちの真実があるので、思わず涙腺が緩んでしまう…。とてもすてきな作品だなと。

-演じる上ではどんなことを心掛けましたか。

 純粋に作品の素晴らしさに心打たれたので、責任を持ってやらなければと覚悟を決めて臨みました。実在の人物を演じるので、モデルになった方たちのためにも、きちんとした作品にしなければなりませんから。だから、「ここでこう見せたい」といったエゴは一切なく、ただひたすら「作品のために」と考えながら演じていました。

-倍賞美津子さんが演じる母親とサトシの親子の関係がとても温かな物語でした。倍賞さんと共演した感想は?

 実は、僕の母親と倍賞さんの誕生日が一緒なんです。撮影が終わってから知ったのですが、驚きました。劇中で僕が一番好きなのが、お母さんが亡くなった後、父親(石橋蓮司)と兄(村上淳)と一緒に琵琶湖を訪れ、男3人が湖でじゃれ合う場面での倍賞さんのお芝居。悲しみに沈むお父さんの前に、お母さんのイメージが現れ、シャツのボタンを外して「行ってらっしゃい」と声を掛ける…。ただそれだけなのに、そのしぐさと言い方だけで2人の関係性がはっきり伝わるんです。「これが役者の仕事だ」と教えられました。

-あのシーンはとてもすてきでした。

 最初に脚本を読んだとき、最も心が動いたのがあのシーンでした。大森(立嗣)監督と話をする中でも、大事なのは残された人たちなのではないかという話になったんです。その人たちがどう再生していくのか、どう成長していくのか…。そこを描かなければ、この作品を作る意味はないと。

-確かに、そういう映画になっていますね。

 しかもこの場面、僕らは裸で湖に入っていくのですが、裸になることを提案したのは、実は倍賞さんなんです。ある日の撮影中、倍賞さんが監督に「湖のシーン、みんな裸がいいんじゃないの?」と。「(石橋)蓮司さんもですか?」と聞いたら、「そう。脱いじゃいなよ、すてきじゃない?」(笑)。お母さんのことを思いながら裸で湖に入るのは、何となく胎児に通じるものがあるので、僕もすてきだなと…。おかげで、笑って泣けるいい場面になりました。

-倍賞さんご本人の印象は?

 撮影したのはおととしの8月ですが、終わった後、倍賞さんと電話番号を交換したんです。そうしたら年末に「倍賞です。お世話になりました。またね」と留守電が入っていて…。そういうことをきちんとされる人柄を知り、改めてすてきな方だな…と。

-そういう意味では、撮影中も心が動くことが多かったですか。

 倍賞さんをはじめ、松下奈緒さん、村上淳さん、石橋蓮司さん…。他の皆さんも含めて、お芝居をする中でのバイブレーションみたいなものは、すごく感じました。監督もそれをとても大事にされていて、撮影中もカメラの横にいるのにモニターを見ないんです。見るのは役者の芝居。「何を撮っているのかはだいたい分かるから、その瞬間、この人たちが自分の目にどう映っているのかを見るんだ」と。監督のそういう姿勢も、僕たちの芝居をより引き出してくれたように思います。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

俳優デビュー25周年の上戸彩が15年ぶりの写真集を発売 台湾で幻想的な夜市でのロケから寝起き姿まで多彩な魅力満載

イベント2025年7月14日

 俳優デビュー25周年を迎えた上戸彩の写真集『Midday Reverie(ミッドデイ・リヴァリー)』(宝島社)が、7月10日に発売された。発売記念イベントが、7月12日(土)に大阪で、そして7月13日(日)に東京・紀伊国屋書店 新宿本店で … 続きを読む

JT・モルナー監督「この映画の実現は厳しいと言われた時に、『羅生門』を見れば分かると言いました」『ストレンジ・ダーリン』【インタビュー】

映画2025年7月11日

 シリアルキラーの恐怖に包まれた街を舞台に、とある男女の出会いが予測不能な展開へと突き進んでいく様子を、時系列を巧みに交錯させた全6章の構成で描いたスリラー映画『ストレンジ・ダーリン』が7月11日から全国公開される。米映画批評サイトのロッテ … 続きを読む

鹿賀丈史「演じることよりも感じることの方が先だったかなと思います」『生きがい IKIGAI』【インタビュー】

映画2025年7月10日

 2024年の元旦に発生した地震で甚大な被害を受け、さらに8カ月後の豪雨によって2度目の災害に見舞われた能登で、ボランティア活動に参加した宮本亞門監督が、復興支援を目的に製作したショートフィルム北陸能登復興支援映画『生きがい IKIGAI』 … 続きを読む

千賀健永、頭が良くてゲームが上手な弟に「かわいい復讐心はありました」【インタビュー】

ドラマ2025年7月7日

 トリンドル玲奈が主演するドラマ「レプリカ 元妻の復讐」が、7日23時6分からテレ東系で放送がスタートする。本作は原作・タナカトモ氏、作画・ひらいはっち氏による同名漫画を映像化。整形して別人として生きる主人公・伊藤すみれ(トリンドル)が、人 … 続きを読む

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

Willfriends

page top