「テーマ曲は、1964年の東京オリンピックの会場に、たくさんの人が集まって、盛り上がっている雰囲気を意識しました」大友良英(音楽)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年2月1日 / 17:09

 放送開始から早くも1カ月近くが経過した大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。躍動感あふれる物語を彩る音楽も耳になじんできた頃ではないだろうか。本作の音楽を担当するのは、連続テレビ小説「あまちゃん」(13)でも脚本家・宮藤官九郎とコンビを組んだ大友良英。軽快なテーマ曲を中心に、音楽製作の舞台裏を語ってくれた。

大河ドラマ「いだてん」から

-テーマ曲の構想はどんなところから?

 最初の打ち合わせから完成まで、1年以上かかっています。話を聞いていくうちに「たくさんの人たちが主役のように出てくる」という印象を持ちました。「あまちゃん」も似た印象でしたが、「いだてん」はメインになる人の人数も多ければ、出てくる地域も世界規模。だから、規模の大きな音楽を作ろうと。

-なるほど。

 たくさん人は出てくるけど、一人一人の個性的な顔が見える曲にしたいなと。そしてもう一つ、主人公の金栗(四三/中村勘九郎)さんが走り続けるドラマなので、曲もずっと走り続けていようと。大河ドラマのテーマ曲というと、華やかに始まって中盤はゆったり…というものが多いのですが、そうではなく、ずっと「ジャンジャカ♪ジャンジャカ♪」と走っている感じにしたいと思いました。

-曲の後半に向けて、徐々に盛り上がって行く感じですね。

 最初のファンファーレからギターと鼓で始まる部分は、人数が5、6人程度。そこから高度成長期のように右肩上がりでどんどん増えていって、最終的に約300人になる構成です。1964年の東京オリンピックの会場に、たくさんの人が集まって、ワーッと盛り上がっている雰囲気を意識しました。

-よく聞くと、いろいろな音が聞こえますが…。

 録音したトラック数(歌声と楽器の数)は最大の箇所で700トラック。参加してくれた百数十人の演奏家全員がコーラスを歌っているのに加えて、他にもスタジオに来た人に歌ってもらっています。僕の声も入っています。恐らく大河史上最大のトラック数ではないかと。本当は1000人を目指していたのですが、さすがに限界で諦めました(笑)。このむちゃぶりに応えてくれたのは、「あまちゃん」でも編曲を担当した江藤直子さん。ものすごく頑張って、オーケストラ用にアレンジをしてくれました。あとは録音エンジニアの高橋清孝さんの技量がなければ実現しなかったです。

-全体的には、サンバのような曲ですね。

 ちょうどこの作品の音楽を考えているときに、1カ月半、中南米を旅してきたので、その要素が入っています。オリンピックが題材なので、日本の中だけの閉じた話ではありませんし。中南米の音楽は、何百人という巨大な規模でアンサンブルをするものが多く、痛快です。ただ、今のブラジルのサンバは、音量が非常に大きくて、テンポも速く、筋肉質なアスリートのような雰囲気。現代のオリンピックを連想させますが、このドラマで描かれるオリンピックは、エリートだけでなく、いろいろな国のいろいろな人が集まった祭典ではないかと。だから、今よりものんびりしていて、自由で、酔っ払いのおじさんもいる、みたいな1950~60年代のサンバをイメージしました。

-確かに、親しみやすい雰囲気があります。

 ドラマでは、金栗さんの話と並行して、飲んだくれてばくちに手を出して…という古今亭志ん生の若い頃も描かれるので、その点も意識しました。

-ドラマ本編の劇伴音楽のことを教えてください。

 今のところ、金栗さんが主人公の前半を想定して、200曲以上作りました。通常、大河ドラマでは1年で150曲ぐらいだそうですが。ただ、僕の場合は他の作曲家のように1曲ずつ丁寧に譜面を書くのではなく、現場でミュージシャンたちと一緒に膨らませていくジャズやポップスのようなやり方。だから曲数も増えるし、従来と少し違った劇伴になるのではないかなと。

-作曲する上で、宮藤官九郎さんとは話をしましたか。

 会っていません。連絡も取っていません。それは「あまちゃん」のときも同じです。宮藤さん自身“グループ魂”というバンドをやっていますが、個性の強い方なので、会うと“グループ魂”のような曲を書いてしまいそうな気がして(笑)。台本を読み、役者の方々のお芝居を見て、音響デザインチームや監督と話し合いながら作業を進めました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

 第42 回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の小説を原作にした鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』が、7月4日公開となる。浪費家の母(河井青葉)に代わってアルバイトで生活を支えながら、奨学金で大学に通う主人公・宮田陽彩が、過酷な境遇を受 … 続きを読む

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

舞台・ミュージカル2025年7月3日

 グローバルな広がりを見せるKカルチャー。日韓国交正常化60周年を記念し、6月28日に大阪市内で上演された「職人の時間 光と風」は、数ある韓国公演の中でも異彩を放っていた。文化をただ“見せる”のではなく、伝統×現代、職人×芸人、工芸×舞台芸 … 続きを読む

Willfriends

page top