「金栗さんの走り方は、ストックホルムオリンピックに向けて洗練されていくように考えました」金哲彦(マラソン指導)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年2月4日 / 15:47

 見事、羽田で行われたオリンピック予選に勝利した金栗四三(中村勘九郎)。いよいよ日本初のオリンピック出場に向けて物語は動き出していく。その中で大きな見どころとなるのが、四三たちがマラソンを走る場面だ。本作のマラソン指導を担当するのは、市民ランナーからプロのアスリートまで幅広く指導を行う一方、NHK BS1で放送中のランニング情報番組「ラン×スマ ~街の風になれ~」にも出演するプロ・ランニングコーチの金哲彦氏。主演の中村勘九郎に対するマラソン指導など、撮影の裏話を語ってくれた。

マラソン指導の金哲彦氏

-中村勘九郎さんへのマラソン指導はいつごろから始めましたか。

 初めてお会いしたのは、2017年の6月です。トレーニングを始める前に体を見せていただいたら、歌舞伎で重い衣装を着たり、足を踏み鳴らしたりするせいか、太ももも太く、思ったよりがっしりしている印象を受けました。歌舞伎役者の方は、皆さんそんな感じだそうですね。ただ、マラソン選手らしい体つきではなかったので、歌舞伎のスケジュールや、普段の食生活などを伺った上で、体作りから始めました。

-具体的な走り方はどのように指導されましたか。

 体作りがある程度進んだところで、長距離を走るための基本的なランニングフォームの指導から入りました。練習を始めてみて分かったのが、勘九郎さんは運動能力が非常に高いということ。筋肉の質がいいんです。だから、短距離を走ると速いし、ジャンプ力もある。陸上競技をやっていれば、跳躍の選手にしたいぐらいです。理解力も抜群で、一度教えたことは、次に会ったときには完全に覚えている。だから、長距離のランニングフォームもすぐにマスターしてしまいました。同じことを何回も言わなくていいので、指導するのは非常に楽でした。

-勘九郎さんが演じる金栗さんの走り方について教えてください。

 金栗さんは、残っている資料が少ないんです。若い頃の写真とストックホルムより後のオリンピックのスタート直後の一瞬の映像と、子どもたちと一緒に走っている70歳頃の映像ぐらい。ただ、それらを見ると、体幹が非常にしっかりして、きちんとした前傾姿勢が取れており、全くぶれていないことが分かります。また、金栗さんは足袋で走っていたので、僕も勘九郎さんが使う足袋を履いてみました。そうすると、ランニングシューズを履いた現代の弾むような走り方とは違って、スリ足に近くなる。地面も、今のようにアスファルトではなく土です。そういった点を考慮し、「恐らくこうだったはず」という走り方を作り上げました。

-勘九郎さんは、その走り方で演じているのですね。

 そうですね。とはいえ、金栗さんのピークはストックホルムオリンピックです。それを踏まえて、演出家の方とも相談しながら、少年時代の粗削りな走りから次第に洗練されていくように、段階を踏む形でいくつかの走り方を考えました。勘九郎さんも、走るシーンがちょうどいいトレーニングになっているらしく、撮影が進むにつれ、マラソン選手らしい脚になってきています。ストックホルムロケのときは「いい脚になってきていませんか?」とうれしそうに語っていました(笑)。

-指導する上で、テレビドラマならではの苦労は?

 普段、僕がランニング指導をするときは、選手が実際に走っている姿を見て、「いいか、悪いか」を判断します。テレビドラマの場合、走るシーンは単調になりがちなので、並走したり、ドローンを使ったりと、演出の方がカメラワークを工夫するのですが、撮り方によってスピード感がかなり変わってきます。だから、僕が問題ないと思っても、画面で見ると監督が思い描くものになっていないことがあるんです。そんなとき、「何とかなりませんか?」と相談されるので、例えば足元のアップであれば、多少デフォルメして足の動きを強調する…といったことが必要な場合もあります。僕も知らなかったので、勉強になりました。

-他にもありますか。

 フルマラソンを走るシーンが何度もありますが、実際の撮影では時系列が前後します。その中で、走行距離に応じた疲労具合を表現しなければなりません。ただ、勘九郎さんは実際に走ったことがないので、相談を受けて「30キロ地点では、足の力が入らなくなってきます」といったアドバイスをすることもあります。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

安田顕「水上くんの目に“本物”を感じた」水上恒司「安田さんのお芝居に強い影響を受けた」 世界が注目するサスペンスで初共演&ダブル主演「連続ドラマW 怪物」【インタビュー】

ドラマ2025年7月5日

 韓国の百想芸術大賞で作品賞、脚本賞、男性最優秀演技賞の3冠を達成した極上のサスペンス「怪物」。WOWOWが世界で初めてそのリメイクに挑んだ「連続ドラマW 怪物」(全10話)が、7月6日(日)午後10時から放送・配信スタート(第1話・第2話 … 続きを読む

TBS日曜劇場「19番目のカルテ」が7月13日スタート 新米医師・滝野みずき役の小芝風花が作品への思いを語った

ドラマ2025年7月5日

 7月13日(日)にスタートする、松本潤主演の日曜劇場「19番目のカルテ」(TBS 毎週日曜夜9時~9時54分)。原作は富士屋カツヒト氏による連載漫画「19番目のカルテ 徳重晃の問診」 (ゼノンコミックス/コアミックス)。脚本は、「コウノド … 続きを読む

南沙良「人間関係に悩む人たちに寄り添えたら」井樫彩監督「南さんは陽彩役にぴったり」期待の新鋭2人が挑んだ鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』【インタビュー】

映画2025年7月4日

 第42 回吉川英治文学新人賞を受賞した武田綾乃の小説を原作にした鮮烈な青春映画『愛されなくても別に』が、7月4日公開となる。浪費家の母(河井青葉)に代わってアルバイトで生活を支えながら、奨学金で大学に通う主人公・宮田陽彩が、過酷な境遇を受 … 続きを読む

紅ゆずる、歌舞伎町の女王役に意欲「女王としてのたたずまいや圧倒的な存在感を作っていけたら」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年7月4日

 2019年に宝塚歌劇団を退団して以降、今も多方面で活躍を続ける紅ゆずる。7月13日から開幕する、ふぉ~ゆ~ meets 梅棒「Only 1,NOT No.1」では初めて全編ノン・バーバル(せりふなし)の作品に挑戦する。  物語の舞台は歌舞 … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】異領域を融合する舞台芸術、演出家イ・インボの挑戦

舞台・ミュージカル2025年7月3日

 グローバルな広がりを見せるKカルチャー。日韓国交正常化60周年を記念し、6月28日に大阪市内で上演された「職人の時間 光と風」は、数ある韓国公演の中でも異彩を放っていた。文化をただ“見せる”のではなく、伝統×現代、職人×芸人、工芸×舞台芸 … 続きを読む

Willfriends

page top