「宮藤くんは、円喬と孝蔵の関係に、僕と自分自身を重ねているのかなと感じることも」松尾スズキ(橘家円喬)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年2月10日 / 20:50

 予選会で世界記録を更新し、日本初のオリンピック出場を目指す金栗四三(中村勘九郎)。だがその前には、数々の困難が立ちふさがる。その奮闘を軽妙に彩るのが、ナビゲーターを務める落語家・古今亭志ん生(ビートたけし)の話芸。本作では、四三の物語と並行して、若き日の志ん生こと美濃部孝蔵(森山未來)の姿も描かれる。その孝蔵の師匠に当たる“伝説の落語家”橘家円喬を演じるのは、舞台演出家、映画監督、俳優など、多彩な活躍を見せる「大人計画」主宰の松尾スズキ。撮影の舞台裏や「大人計画」所属の宮藤官九郎が手掛ける脚本や、作品の印象などを語ってくれた。

橘家円喬役の松尾スズキ

 

-橘家円喬は、どんな人物だったとお考えでしょうか。

 1日に4軒も寄席をはしごするほどの超売れっ子だったそうです。その一方で、求道的な面を持ち、孤独を愛していた。そういうところが僕は好きです。ただ、それが意地悪として出てしまい、先輩の落語家の話を聞き、詰まらないと変な間合いで笑ったり、くしゃみをしたりして邪魔をしたりすることもあったとか。そんなふうに、人との関わりを避けてドライに生きているにもかかわらず、弟子の孝蔵(後の古今亭志ん生)との関係には、どこか人間味が感じられます。

-寄席のシーンを撮影した感想は?

 エキストラの方が客としてたくさんいましたが、皆さん「ここで笑って」と指示を受けているので、何を言っても笑ってくれるんです。ただ、それが笑いをやっている人間としては、逆に不安で「自分は今、天国にいるのか、地獄にいるのか」という微妙な気持ちになりました(笑)。皆さんものすごく頑張ってくれるので、逆に僕の声がかき消されそうになり、丁寧に練習したのに、最終的にはずっと大声…みたいな状態にもなりましたし…(笑)。でも、ライブ感があって面白かったです。

-劇中で演じる落語のうち、お好きなものは?

 「文七元結」という話は面白かったです。人情話としてよくできているし、笑えるところも多い。脚本家として、とても勉強になりました。

-落語家を演じてみて発見はありましたか。

 落語家は演者であると同時に、演出家なんだなと。その日の客の顔色を見て枕を決めたり、要らないと思った話を端折ったり…。丸暗記ではなく、自由にお話を編集して演じられる。同じ言い回しでも、スッと終わったり、何回か繰り返したり、やるたびに違う。音楽で言うと、DJに近い感じでしょうか。言ってみれば、多重人格を演じる上に、情景描写まで1人でやるわけですから。そうやって、その場の空気をオーガナイズしていくようなところがある。そういうところは、演出家として、とても勉強になります。

-円喬を演じる中で、印象に残ったことは?

 弟子の孝蔵のことを、ずっと「美濃部くん」と“くん付け”で呼ぶのは面白いなと。決して「美濃部」とは呼ばない。円喬は他人と距離を取りたい男なので、“くん付け”することで「こっちには入らせないよ」という距離感を出し、自分も孝蔵の方には立ち入らない。それでも、人間的に駄目なところがある孝蔵のことを愛している部分もある。「美濃部くん」という呼び方には、そんな円喬の気持ちが表れているような気がします。

-そんな円喬の弟子・孝蔵を演じる森山未來さんの印象は?

 彼が20歳ぐらいの頃から知っていますが、歌も踊りも、演技もうまいという希有な役者です。だから、生半可な芝居では許してくれないだろうという、ある種の緊張感を保ちながらやっています。落語を演じている様子を見たら、ものすごい気迫。演じ終わって楽屋に飛び込んできたとき、せき込んだ勢いで森山くんのコンタクトレンズが手に落ち、それを吸い込んでしまったほどで…。そんなことがあるのかと驚きましたが、それぐらいの気迫がありました。

-第5回で、孝蔵の弟子入りを認めるくだりには、円喬らしさが出ていましたね。

 人力車を引いていた孝蔵を「あ、そう。じゃあ、明日も頼むよ」とさらっと受け入れていて、小粋な感じでしたね。森山くんと事前に相談したわけではありませんが、バタッと車を止め、急に「弟子にしてください」と頭を下げるあたりの間合いは絶妙でした。何度も車を引かせて申し訳なかったですが、急カーブを切ると、飛び出しそうになるのが怖くて…。そこだけ「ちょっとやめて」と(笑)。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

宮藤官九郎「人間らしく生きる、それだけでいいんじゃないか」 渡辺大知「ドラマに出てくる人たち、みんなを好きになってもらえたら」 ドラマ「季節のない街」【インタビュー】

ドラマ2024年4月26日

 宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手掛けたドラマ「季節のない街」が、毎週金曜深夜24時42分からテレ東系で放送中だ。本作は、山本周五郎の同名小説をベースに、舞台となる“街”を12年前に起きた災害を経て建てられた仮設住宅のある“街”へと置き換え … 続きを読む

【週末映画コラム】全く予測がつかない展開を見せる『悪は存在しない』/“反面教師映画”『ゴジラ×コング 新たなる帝国』

映画2024年4月26日

『悪は存在しない』(4月26日公開)  自然豊かな高原に位置する長野県水挽町は、東京からもそう遠くないため移住者が増加し、緩やかに発展している。代々その地に暮らす巧(大美賀均)は、娘の花(西川玲)と共に自然のサイクルに合わせたつつましい生活 … 続きを読む

志田音々「仮面ライダーギーツ」から『THE 仮面ライダー展』埼玉スペシャルアンバサダーに「埼玉県出身者として誇りに思います」【インタビュー】

イベント2024年4月25日

 埼玉県所沢市の「ところざわサクラタウン」内「角川武蔵野ミュージアム」3Fの EJアニメミュージアムで、半世紀を超える「仮面ライダー」の魅力と歴史を紹介する展覧会『THE 仮面ライダー展』が開催中だ。その埼玉スペシャルアンバサダーを務めるの … 続きを読む

岩田剛典 花岡の謝罪は「すべてが集約された大事なシーン」初の朝ドラで主人公・寅子の同級生・花岡悟を熱演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年4月25日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。明律大学女子部を卒業した主人公・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、同級生たちと共に法学部へ進学。男子学生と一緒に法律を学び始めた。そんな寅子の前に現れたのが、同級生の花岡悟だ。これから寅子と関わっていく … 続きを読む

瀬戸利樹、セラピスト役は「マッチョな体も見どころ」 役作りは「実際に施術を見学して、レクチャーを受けました」

ドラマ2024年4月24日

 現在放送中のドラマ「買われた男」で主演を務める瀬戸利樹が取材に応じ、本作の魅力や役作りについて語った。  本作は、三並央実氏と芹沢由紀子氏による漫画『買われた男~女性限定快感セラピスト~』が原作。セックスレスの主婦、芸能人、女社長、風俗嬢 … 続きを読む

Willfriends

page top