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予選会で世界記録を更新し、日本初のオリンピック出場を目指す金栗四三(中村勘九郎)。だがその前には、数々の困難が立ちふさがる。その奮闘を軽妙に彩るのが、ナビゲーターを務める落語家・古今亭志ん生(ビートたけし)の話芸。本作では、四三の物語と並行して、若き日の志ん生こと美濃部孝蔵(森山未來)の姿も描かれる。その孝蔵の師匠に当たる“伝説の落語家”橘家円喬を演じるのは、舞台演出家、映画監督、俳優など、多彩な活躍を見せる「大人計画」主宰の松尾スズキ。撮影の舞台裏や「大人計画」所属の宮藤官九郎が手掛ける脚本や、作品の印象などを語ってくれた。
1日に4軒も寄席をはしごするほどの超売れっ子だったそうです。その一方で、求道的な面を持ち、孤独を愛していた。そういうところが僕は好きです。ただ、それが意地悪として出てしまい、先輩の落語家の話を聞き、詰まらないと変な間合いで笑ったり、くしゃみをしたりして邪魔をしたりすることもあったとか。そんなふうに、人との関わりを避けてドライに生きているにもかかわらず、弟子の孝蔵(後の古今亭志ん生)との関係には、どこか人間味が感じられます。
エキストラの方が客としてたくさんいましたが、皆さん「ここで笑って」と指示を受けているので、何を言っても笑ってくれるんです。ただ、それが笑いをやっている人間としては、逆に不安で「自分は今、天国にいるのか、地獄にいるのか」という微妙な気持ちになりました(笑)。皆さんものすごく頑張ってくれるので、逆に僕の声がかき消されそうになり、丁寧に練習したのに、最終的にはずっと大声…みたいな状態にもなりましたし…(笑)。でも、ライブ感があって面白かったです。
「文七元結」という話は面白かったです。人情話としてよくできているし、笑えるところも多い。脚本家として、とても勉強になりました。
落語家は演者であると同時に、演出家なんだなと。その日の客の顔色を見て枕を決めたり、要らないと思った話を端折ったり…。丸暗記ではなく、自由にお話を編集して演じられる。同じ言い回しでも、スッと終わったり、何回か繰り返したり、やるたびに違う。音楽で言うと、DJに近い感じでしょうか。言ってみれば、多重人格を演じる上に、情景描写まで1人でやるわけですから。そうやって、その場の空気をオーガナイズしていくようなところがある。そういうところは、演出家として、とても勉強になります。
弟子の孝蔵のことを、ずっと「美濃部くん」と“くん付け”で呼ぶのは面白いなと。決して「美濃部」とは呼ばない。円喬は他人と距離を取りたい男なので、“くん付け”することで「こっちには入らせないよ」という距離感を出し、自分も孝蔵の方には立ち入らない。それでも、人間的に駄目なところがある孝蔵のことを愛している部分もある。「美濃部くん」という呼び方には、そんな円喬の気持ちが表れているような気がします。
彼が20歳ぐらいの頃から知っていますが、歌も踊りも、演技もうまいという希有な役者です。だから、生半可な芝居では許してくれないだろうという、ある種の緊張感を保ちながらやっています。落語を演じている様子を見たら、ものすごい気迫。演じ終わって楽屋に飛び込んできたとき、せき込んだ勢いで森山くんのコンタクトレンズが手に落ち、それを吸い込んでしまったほどで…。そんなことがあるのかと驚きましたが、それぐらいの気迫がありました。
人力車を引いていた孝蔵を「あ、そう。じゃあ、明日も頼むよ」とさらっと受け入れていて、小粋な感じでしたね。森山くんと事前に相談したわけではありませんが、バタッと車を止め、急に「弟子にしてください」と頭を下げるあたりの間合いは絶妙でした。何度も車を引かせて申し訳なかったですが、急カーブを切ると、飛び出しそうになるのが怖くて…。そこだけ「ちょっとやめて」と(笑)。
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