【インタビュー】『洗骨』照屋年之監督「現場に芸人のゴリは一切なく、ただ汗まみれで無精ひげで、一生懸命演出している素の僕がいました」

2019年2月8日 / 13:10

 沖縄の一部の島に残る“洗骨”。文字通り一度、土葬(または風葬)された遺体が骨になった後、その骨を洗って再び埋葬する風習である。この洗骨を題材に、ユーモアを交えて家族の絆を描いた『洗骨』が、2月9日から全国公開される。監督・脚本を担当したのは、沖縄出身のお笑いコンビ“ガレッジセール”のゴリこと照屋年之。本名で挑んだ本作に込めた思いを聞いた。

照屋年之監督

-洗骨をモチーフに映画を撮ることになった経緯を教えてください。

 もともと、沖縄国際映画祭で地域活性化のための短編映画を撮っていたことがきっかけです。それまで糸満市、沖縄市、国頭村を舞台に撮ってきて、4度目が粟国島。沖縄本島から離れた島なので、本島との行き来を利用したドタバタコメディーの脚本を書いていたんです。でもある日、プロデューサーがなにげなく「粟国島には、まだ洗骨文化が残っていますね」と言ったことから、運命が大きく変わりました。

-洗骨に引かれた理由は?

 まず、「今の時代、法律的にそんなことが許されるのか?」と驚きました。亡くなった人の遺体をそのままお墓に安置して、数年後にみんなで骨を洗って骨壺に収める…。衝撃です。でも同時に、昔は沖縄全土で行われていたことを知り、「何のために?」と理由が知りたくなったんです。そこで、洗骨の経験があるお年寄りに取材していくと、命のつながりを大事にした儀式であることが分かってきた。血がつながっているからこそ、生前の故人に対する思いを込めて、一本、一本、骨をきれいに洗う…。それを知ったとき、“命のリレー”だと感じたんです。

-というと?

 自分が今いるのは母親が生んでくれたからで、母親がいるのは祖母がいたから、祖母がいるのは…とたどっていくと、何万年という時間をさかのぼることができる。みんなが生きることを諦めず、命をつないできたからこそ、自分が今ここにいるんだなと。それに気付いたとき、洗骨が魅力的なものに映り、脚本を書き始めました。

-本作は、そうやって出来上がった短編『born、bone、墓音。』を原案にしながらも、雰囲気はだいぶ異なります。その理由は?

 『born、bone、墓音。』の後、母が亡くなったことが大きかったです。通夜で母の顔を見ながら「この人のおかげで、俺は今いるんだよな…」と考えていたことから生まれた部分もあるので…。だから、主人公の母親は僕の母と同じ名前にして、なんとなくイメージも重ねています。その分、脚本もスムーズに書くことができた気がします。

-家族の物語にした理由は?

 洗骨という風習を見せるだけであれば、ドキュメンタリーにすればいい話です。でも、家族の物語にすれば、日本だけでなく海外の人にも共感してもらえるのではないかと。そこで、“母親の骨を洗う”ことに向けて、バラバラだった家族が一つになっていく物語を作り上げました。『洗骨』をモスクワ映画祭で上映した際、お客さんから「モスクワにも昔は洗骨の風習があった」と聞いて驚きましたが、うれしかったです。肌の色やしゃべる言葉が違っても、亡くなった人を弔う気持ちや家族に対する思いは一緒なんだなと。

-この作品で印象的なのが、男性の駄目さと女性の強さ、たくましさが描かれていることです。その辺りは、監督の男女観の表れでしょうか。

 基本的に僕は女性の方が強いと考えています。僕の母親も、優しくて頭の回転が速く、切れ者の上に働き者で強い女性でした。うちの奥さんも強い女性ですし、その方が世の中うまく回るような気がしています。男はプライドの生き物なので、女性がちょっとヨイショしてあげれば、男は手の平で転がされていることに気付かずに働きますから。それを見て女性は「シメシメ…」と思っていればいいのではないかと(笑)。

-なるほど(笑)。

 また、僕は基本的に駄目な人間や、弱い人間を描きたいと思っています。勝ち組や完璧な人間には興味がありません。僕にも不安を抱えていたり、自信がなかったりする駄目な部分があり、そういうものを描いた映画やドラマから勇気をもらってきました。だから、せっかく自分で作るチャンスがあるのなら、僕のような人の力になれる作品にしたいと。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

「光る君へ」第二十三回「雪の舞うころ」藤原為時や藤原道長ら、真面目な人々が紡ぐ物語の心地よさ【大河ドラマコラム】

ドラマ2024年6月15日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「光る君へ」。6月9日に放送された第二十三回「雪の舞うころ」では、前回波乱を巻き起こした殺人事件の顛末(てんまつ)が明らかになると共に、主人公まひろ(吉高由里子)と宋の見習い医師・周明(松下洸平)の交流などが … 続きを読む

「アンチヒーロー」最終話を前にプロデューサーが語る 「伏線はほぼ回収できたと思っています」

ドラマ2024年6月15日

 TBS系の日曜劇場で放送中のドラマ「アンチヒーロー」の最終話試写会が11日に行われ、16日の放送を前に飯田和孝プロデューサーが記者の質問に答えた。  まず、登場人物の名字に色が入っている点については、「明墨(長谷川博己)という主人公の名前 … 続きを読む

三山凌輝「直明の熱量の高さや素直さは、僕自身に近い」朝ドラ初出演でヒロイン、寅子の弟を好演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

テレビ2024年6月14日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。戦後の昭和の時代を迎えた物語は、主人公の佐田寅子(伊藤沙莉)が裁判官を目指す「裁判官編」に突入した。その中で、戦争孤児たちの世話をするボランティア活動などに尽力する寅子の弟・猪爪直明を好演して … 続きを読む

【映画コラム】大泉洋が適役の『ディア・ファミリー』/伝統的なアメリカンファンタジー『ブルー きみは大丈夫』

映画2024年6月14日

『ディア・ファミリー』(6月14日公開)  1970年代。小さな町工場を経営する坪井宣政(大泉洋)と妻・陽子(菅野美穂)の三女の佳美(福本莉子)は生まれつき心臓疾患を抱え、余命10年を宣告される。  どこの医療機関でも治すことができないとい … 続きを読む

「この映画を作りながら、プリンスが僕の人生を変えてくれたと言っても過言ではありません」『プリンス ビューティフル・ストレンジ』ダニエル・ドール監督【インタビュー】

映画2024年6月14日

 1958年に米ミネソタ州ミネアポリスで生まれ、住民のほとんどが白人という環境下で多感な青春時代を過ごしたプリンス(本名:プリンス・ロジャーズ・ネルソン)。自伝的映画『パープル・レイン』(84)とそのサントラのメガヒットで世界的スターとなっ … 続きを読む

Willfriends

page top