エンターテインメント・ウェブマガジン
沖縄の一部の島に残る“洗骨”。文字通り一度、土葬(または風葬)された遺体が骨になった後、その骨を洗って再び埋葬する風習である。この洗骨を題材に、ユーモアを交えて家族の絆を描いた『洗骨』が、2月9日から全国公開される。監督・脚本を担当したのは、沖縄出身のお笑いコンビ“ガレッジセール”のゴリこと照屋年之。本名で挑んだ本作に込めた思いを聞いた。
もともと、沖縄国際映画祭で地域活性化のための短編映画を撮っていたことがきっかけです。それまで糸満市、沖縄市、国頭村を舞台に撮ってきて、4度目が粟国島。沖縄本島から離れた島なので、本島との行き来を利用したドタバタコメディーの脚本を書いていたんです。でもある日、プロデューサーがなにげなく「粟国島には、まだ洗骨文化が残っていますね」と言ったことから、運命が大きく変わりました。
まず、「今の時代、法律的にそんなことが許されるのか?」と驚きました。亡くなった人の遺体をそのままお墓に安置して、数年後にみんなで骨を洗って骨壺に収める…。衝撃です。でも同時に、昔は沖縄全土で行われていたことを知り、「何のために?」と理由が知りたくなったんです。そこで、洗骨の経験があるお年寄りに取材していくと、命のつながりを大事にした儀式であることが分かってきた。血がつながっているからこそ、生前の故人に対する思いを込めて、一本、一本、骨をきれいに洗う…。それを知ったとき、“命のリレー”だと感じたんです。
自分が今いるのは母親が生んでくれたからで、母親がいるのは祖母がいたから、祖母がいるのは…とたどっていくと、何万年という時間をさかのぼることができる。みんなが生きることを諦めず、命をつないできたからこそ、自分が今ここにいるんだなと。それに気付いたとき、洗骨が魅力的なものに映り、脚本を書き始めました。
『born、bone、墓音。』の後、母が亡くなったことが大きかったです。通夜で母の顔を見ながら「この人のおかげで、俺は今いるんだよな…」と考えていたことから生まれた部分もあるので…。だから、主人公の母親は僕の母と同じ名前にして、なんとなくイメージも重ねています。その分、脚本もスムーズに書くことができた気がします。
洗骨という風習を見せるだけであれば、ドキュメンタリーにすればいい話です。でも、家族の物語にすれば、日本だけでなく海外の人にも共感してもらえるのではないかと。そこで、“母親の骨を洗う”ことに向けて、バラバラだった家族が一つになっていく物語を作り上げました。『洗骨』をモスクワ映画祭で上映した際、お客さんから「モスクワにも昔は洗骨の風習があった」と聞いて驚きましたが、うれしかったです。肌の色やしゃべる言葉が違っても、亡くなった人を弔う気持ちや家族に対する思いは一緒なんだなと。
基本的に僕は女性の方が強いと考えています。僕の母親も、優しくて頭の回転が速く、切れ者の上に働き者で強い女性でした。うちの奥さんも強い女性ですし、その方が世の中うまく回るような気がしています。男はプライドの生き物なので、女性がちょっとヨイショしてあげれば、男は手の平で転がされていることに気付かずに働きますから。それを見て女性は「シメシメ…」と思っていればいいのではないかと(笑)。
また、僕は基本的に駄目な人間や、弱い人間を描きたいと思っています。勝ち組や完璧な人間には興味がありません。僕にも不安を抱えていたり、自信がなかったりする駄目な部分があり、そういうものを描いた映画やドラマから勇気をもらってきました。だから、せっかく自分で作るチャンスがあるのなら、僕のような人の力になれる作品にしたいと。
インタビュー2025年11月17日
韓国文化の“今”を再構築し続けるKカルチャー。今回は、デジタル空間で物語を紡ぐウェブトゥーンの世界に焦点を当てる。平凡な会社員ユミの頭の中で繰り広げられる細胞の物語――。2015年に連載を開始した「ユミの細胞たち」は、全512話で32億ビ … 続きを読む
映画2025年11月14日
日本海沿岸の小さな漁師町を舞台に、元ヤクザの漁師・三浦と目の見えない少年・幸太という、年の離れた孤独な2人の絆を描くヒューマンドラマ『港のひかり』が、11月14日から全国公開中だ。 主演に舘ひろしを迎え、『正体』(24)の俊英・藤井道人 … 続きを読む
2025年11月14日
YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼玉田永教と神道講釈 銭湯の湯け … 続きを読む
映画2025年11月13日
40人の武装強盗団が、ニューデリー行きの特急寝台列車を襲撃! 刀を手に乗客から金品を奪う強盗団のリーダー、ファニ(ラガヴ・ジュヤル)は、大富豪タークルとその娘トゥリカ(ターニャ・マニクタラ)を人質に取り、身代金奪取をもくろむ。だがその列車 … 続きを読む
映画2025年11月11日
何かに夢中になると他のことが目に入らなくなってしまうジュゼッペ(声:佐野晶哉)は、街の人々から「トリツカレ男」と呼ばれている。ある日、ジュゼッペは、公園で風船売りをしているペチカに一目ぼれし、夢中になるが…。作家・いしいしんじの同名小説を … 続きを読む