【映画コラム】二人を隔てる時間と距離が何とも切ない『君の名は。』

2016年8月27日 / 16:28
(C)2016『君の名は。』製作委員会

(C)2016『君の名は。』製作委員会

 千年に一度の彗星(すいせい)来訪が1カ月後に迫った日本を舞台にしたファンタスティックなアニメーション映画『君の名は。』が公開された。

 山々と湖に囲まれた田舎町に住む女子高校生の宮水三葉(声=上白石萌音)は、ある日、東京で暮らす男子高校生になった夢を見る。同じころ、東京に住む男子高校生の立花瀧(神木隆之介)も田舎町で暮らす女子高校生になった夢を見た。そして二人は…。

 新海誠監督は精緻な風景描写で知られる。本作の、東京と架空の村との対照の妙、さらに彗星の美しさは必見。また、作画監督はスタジオジブリ出身の安藤雅司が担当しているが、ジブリ作品とは異なる独特の世界を構築している。

 声優陣は、過去に宮崎、細田守の作品でも声優を務めた神木と『おおかみこどもの雨と雪』(12)以来の上白石が、その魅力を存分に発揮。脇役の長澤まさみと市原悦子の声も印象に残る。また、ドラマとマッチしたRADWIMPSの音楽も聴きものだ。

 ところで、筆者にとって主役の二人は自分の子どものような年ごろ。加えて、映画を見る前は、こうした話をアニメで見ることに若干の抵抗があったのだが、映画が進むにつれ、二人を隔てる時間と距離がもたらす切ないドラマに胸を締めつけられ始め、最後に明らかになる真実には涙を禁じ得なかった。

 それは、男女の入れ替わりは『転校生』(82)、時を超えた愛は『時をかける少女』(83)と、なじみのある大林宣彦監督の映画と重なる部分を感じたからかもしれない。また、三葉の家を神職とすることで、説話的な世界との結び付きを描き、不思議な現象に一定の説得力を持たせたことも大きいだろう。

 もとより、アニメ映画にとっては絵の良しあしが最重要だが、脚本が稚拙なら名作とはならない。それは実写映画と何ら変わるところはないのだ。本作を見ると改めてそのことにも気付く。

 これは蛇足だが、本作の印象的なタイトルは、すれ違いドラマの元祖『君の名は』を意識したのだろうか。それとも単なる偶然なのか。新海監督に確かめてみたい気がする。(田中雄二)


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