【映画コラム】“自分を変えること”の難しさと素晴らしさを描いた『サウスポー』

2016年6月4日 / 16:35
Artwork (C) 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

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 プロボクシングの元世界チャンピオンの葛藤と再起を描いた『サウスポー』が公開された。

 ニューヨーク、ヘルズキッチンの養護施設出身のボクサー、ビリー・ホープ(ジェイク・ギレンホール)は、怒りをエネルギーに変えて相手を倒すというスタイルで世界チャンピオンの座へと上り詰めた。

 だが自らの過ちから最愛の妻(レイチェル・マクアダムス)を亡くし、娘とも離れ離れにさせられ、王座も失う。全てを失ったビリーは、再び娘と暮らすための新たな人生を模索する。

 どん底から拳一つではい上がる姿、あるいは拳一つで夢をかなえる姿は、アメリカンドリームの一つの象徴であり、これまでも数多くのボクシング映画が作られてきた。

 その点、今回肉体改造をしてボクサー役に挑んだギレンホールは『レイジング・ブル』(80)のロバート・デ・ニーロをほうふつとさせるし、本作の父と娘の関係を父と息子に置き換えれば名作『チャンプ』(31・79)につながる。

 また、フォレスト・ウィテカー演じるトレーナーの存在や、彼が編み出すユニークなトレーニング方法というパターンは、『ロッキー』(76)や日本の漫画『あしたのジョー』にも見られるまさに定番中の定番。予想通りに展開していく物語を見るのは気持ちがいいものだ。

 また、自身もボクシング経験のあるアントワーン・フークア監督は、こうしたオーソドックスなストーリーに、ボクシング界の現状やラップミュージックなどを織り交ぜて、今の映画として仕上げている。試合シーンのリアルさは迫力満点。CGではないギレンホールの生身が生み出すパワーも見どころとなる。

 ところで、実はビリーはサウスポー(左利き)ではない。ではなぜタイトルは…。その理由はラストで明らかになる。そこに“自分を変えること”の難しさと素晴らしさという、本作のテーマが凝縮されている。

 と、この原稿を書いている最中に、プロボクシングの元ヘビー級王者、ムハマド・アリ氏の訃報が伝えられた。彼こそはまさに自らの生き方やボクシングを通して世界のさまざまな常識を変えた人だった。(田中雄二)


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