【映画コラム】改めて五輪の功罪について考えるきっかけに『栄光のランナー 1936ベルリン』

2016年8月6日 / 17:57
Credit : Focus Features Credit : Thibault Grabherr (C) 2016 Trinity Race GmbH / Jesse Race Productions Quebec Inc. All Rights Reserved.

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 いよいよリオデジャネイロ五輪が開幕した。そんな中、1936年に開催されたベルリン五輪の陸上競技で四つの金メダルを獲得した米国の黒人選手ジェシー・オーエンスの半生を描く『栄光のランナー 1936ベルリン』が11日から公開される。

 ベルリン五輪の男子100メートル、200メートル、4×100メートルリレー、走り幅跳びで4冠に輝いたオーエンスは、後のカール・ルイスやウサイン・ボルトらから見れば先駆者的な存在だが、彼が活躍した時代の人種差別は現代とは比べものにならない程、激しいものがあった。

 本作の第一の見どころは、もちろん見事に再現された競技シーンだが、単純なスポーツヒーローものではない。若きオーエンス(ステファン・ジェームズ)の闘いを通して、当時の人種差別の実態や米独の対立構造をも浮き彫りにしていくからだ。

 そして、その背景に、オーエンスと白人コーチとの師弟愛、彼が巻き起こす家庭問題、走り幅跳びの銀メダリスト、ドイツのルッツ・ロングとの友情といったドラマを盛り込んでいる。

 また、オーエンスと覇を競い、走り幅跳びで銅メダルを獲得した日本の田島直人(三段跳びでは金メダル)と200メートル銀メダルのマシュー・ロビンソン(黒人初の大リーガーとなったジャッキーの兄)もちらりと登場する。

 さらにオーエンスの周囲に、アドルフ・ヒトラー総統、宣伝相のヨーゼフ・ゲッベルス、記録映画『美の祭典』『民族の祭典』を撮ったレニ・リーフェンシュタールといったナチスドイツの関係者、後にIOC(国際オリンピック委員会)の会長となる米国のアベリー・ブランデージ(ジェレミー・アイアンズ)といった多彩な人物を登場させ、ナチスがゲルマン民族の優位性を示さんがために、五輪をプロパガンダに利用した背景や人種差別の問題もあぶり出す。

 この大会で、ドイツは最多の金メダル33個を獲得して威信を示したが、その反面、オーエンスをはじめとするアメリカ勢が24個、日本も6個の金メダルを獲得するなど大健闘を見せた。皮肉にも開催した五輪が、ゲルマン民族の優位性を唱えたヒトラーの矛盾を露呈させる形となったのだ。

 リオ五輪も開催までにさまざまな問題が噴出したことは記憶に新しい。本作は、改めて五輪の功罪について考えるきっかけにもなるだろう。(田中雄二)


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