【インタビュー】映画『死刑にいたる病』白石和彌監督「阿部さんと岡田さんならゾクゾクする目線のやりとりになると」「自然を映し込むことは、映画の大きな醍醐味」

2022年5月4日 / 12:00

-対照的に雅也のバックボーンは、しっかりと描かれています。

 加害者のルポルタージュは、日本の事件以外にもいろいろ読んでいますが、結局、何で罪を犯したのかが最終的には分からないことが多い。そこはあくまでもミステリアスにしておいた方が、面白いし、リアルだろうと。雅也は、巻き込まれてのめり込んでいきながら、人生自体が影響を受けて変わっていくので、家族を描くことは重要でした。

-2人が対峙(たいじ)する拘置所の面会シーンは見応えがあります。

 『凶悪』の時、面会室をどう撮るかは大きな課題でした。あのときは、人物の正面と反対側の正面をカットバックするだけだったんです。それがあったから今回はもう縦横無尽にカメラを動かそうと。光も、強弱をつけたり、壁際を落としたり、雰囲気を出して、ガラスの映り込みもしっかり調整して、使えるものは何でも使おうと(笑)。森田芳光監督の『39 刑法第三十九条』(99)とか是枝裕和監督の『三度目の殺人』(17)とか、面会室のシーンが印象的な映画はけっこうありますけど、特別参考にしたということはないです。いくら見直しても、面会室ってやれることに限界があるので。最後はもうやれることがなくなって、阿部さんに「隣の部屋に入ってみてください」と。あれは現場で思い付いた演出でした。

-もう一つ、白石監督といえば、雨。生々しいのに作り込まれた画面が白石作品の特徴で、雨はそれに大きく貢献している。これほど雨にこだわるのはどうしてですか。

 助監督時代の経験が大きいです。僕は若松プロ出身なのですが、若松孝二さんは独立プロでやっていたのでお金をかけられなかった。なので若松組では雨降らしをやった経験がないですし、クレーンもほとんど使っていない。その後、若松プロを離れてから他の現場で雨の映画的な効果を実感して、これは面白い!と。雨を降らせるだけで、何でもないシーンでもドラマチックになるんです。それを何度も体験したので、ホントは全編雨の映画を撮りたいんですけど、さすがに怒られますから(笑)。

 なので、ポイントとしてどこかに雨を入れられるときは入れたいと思い、脚本が出来上がると、脚本には雨が降っているかどうかは書かれていないので、このシークエンスなら雨が降っていてもいいかなとプロデューサーと相談する。このシークエンスだと2回、ここは3回雨降らし隊が出動することになるとか、最初に明確に意識します。ただ雨はもろ刃のつるぎで、悲しいシーンに使い過ぎると逆効果なので、皆とけんけんがくがくやりながら決めています。

 黒澤明監督の映画を見ると、雨だけでなく風だったり、あらゆる映画的な効果を使っているので、できることはやっていいんじゃないかと思います。ポン・ジュノ監督も、『パラサイト 半地下の家族』(19)は雨でアカデミー賞を取ったんじゃないかというぐらい、上下の空間を雨で表現している。自然を映画の中に映し込んで画面を作り込んでいく。それは映画の大きな醍醐味(だいごみ)の一つだと思います。僕の場合は、まだまだですけど。

(取材・文/外山真也)

(C)2022映画「死刑にいたる病」製作委員会

 

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

磯村勇斗&堀田真由、ともにデビュー10年を迎え「挑戦の年になる」 ドラマ「僕達はまだその星の校則を知らない」【インタビュー】

ドラマ2025年7月2日

 磯村勇斗主演、堀田真由、稲垣吾郎が出演するカンテレ・フジテレビ系“月10ドラマ”「僕達はまだその星の校則を知らない」が7月14日から放送スタートする。本作は、独特の感性を持つがゆえに何事にも臆病で不器用な主人公・白鳥健治(磯村勇斗)が、少 … 続きを読む

蓮佛美沙子&溝端淳平「カップルや夫婦が“愛の形”を見直すきっかけになれたら」 グアムで撮影した新ドラマ「私があなたといる理由」【インタビュー】

ドラマ2025年7月1日

 ドラマ「私があなたといる理由~グアムを訪れた3組の男女の1週間~」が、7月1日からテレ東系で放送がスタートする。本作は、グアムを訪れた世代が違う男女3組のとある1週間を描いた物語。30代の夫婦(蓮佛美沙子、溝端淳平)、20代の大学生カップ … 続きを読む

風間俊介「横浜流星くんと談笑する機会が増えてきたことがうれしい」蔦重と和解した鶴屋喜右衛門役への思い【大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」インタビュー】

ドラマ2025年6月29日

-それが変わってきたということでしょうか。  物事は、ある程度加速がつき、歯車がスムーズに回り始めれば、少ないエネルギーで進んでいくようになりますが、スタートするときは膨大なエネルギーが必要です。この作品もそういう過程を経て、ようやく彼が笑 … 続きを読む

栗田貫一「今回はルパンたちが謎の世界に迷い込んで謎の敵と戦って、しかも前に倒した連中もよみがえってくるみたいな感じです」『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』【インタビュー】

映画2025年6月27日

-30年間やってきて、栗田さんなりのルパンに対する思いや魅力について。また栗田さんにとってルパンとはどういう存在でしょうか。  やっぱりルパン三世の声は、パート2や『ルパン三世 カリオストロの城』(79)の頃の、山田さんが一番元気だった頃の … 続きを読む

光石研、大倉孝二「ちょっと重いけれどちゃんとエンターテインメントになっていると思います」『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』【インタビュー】

映画2025年6月27日

-三池崇史監督の演出や映画に対する姿勢についてはどう感じましたか。 大倉 あまり無駄なことはおっしゃらないです。すごく明確な演出をなさいます。僕の場合は、校長と薮下先生との間に挟まれているという、スタンスにちょっとよどみがあったのかもしれな … 続きを読む

Willfriends

page top