「結婚願望がなくなった」 朝ドラヒロインを通じての成長と変化 広瀬すず(坂場なつ)【「なつぞら」インタビュー】

2019年9月26日 / 15:48

 日本のアニメーション界の草創期を舞台にしたアニメーターの成長記であり、ヒロインなつと家族のホームドラマでもある「なつぞら」。数十年にもわたるなつの人生を生きる中で、結婚・育児を疑似体験した広瀬すずは、働く女性として生きる難しさを痛感したという。撮影を終えた今、本作との出会いによる成長や変化、終盤の見どころなどを語ってくれた。

坂場なつ役の広瀬すず

-およそ1年3カ月にわたる撮影、お疲れさまです。無事に終えた今のお気持ちは?

 ありがとうございます。二十歳になったタイミングで、一人の女性の人生を何十年にもわたって演じる朝ドラのヒロインを任され、さまざまな演技を求められたことは、女優として試されているようでした。「朝ドラ100作目」ということで、世間から大きな注目を浴びていたことも伝わってきました。

-広瀬さんの座長としてのたたずまいが素晴らしいと共演者は絶賛されていましたが、ご自身はどのような心境で現場にいらっしゃいましたか。

 「朝ドラのヒロインは大変」と聞いていたので、楽しんだもん勝ち!と思っていました。もちろん体力的には大変でしたが、精神的に追い詰められることはなく、「大変」より「楽しい」が勝っていました。途中からは周りの人から心配されることがなくなりました(笑)

-座長として意識していたことはありますか。

 大したことは何もしていません。皆さんに現場に来ることが楽しいと思ってもらえるように、普段は人見知りですが、なるべくいろんな方と話すようにしていたぐらいです。

-広瀬さんが現場に台本を持ってこないという話も有名でしたが、毎回完璧な状態で撮影に臨まれていたのですか。

 台本は荷物になるから持ち歩かなかっただけです。せりふを忘れたら、現場に置いてある台本を読んでいました(笑)。ただ、せりふ覚えはいい方で、リハーサルの時点で完璧にしておきたいタイプではあります。あとは、せりふや動きを忘れそうな頃に本番に挑む方が新鮮味があるし、長ぜりふも話しているうちに思い出していく方がライブ感があって、役として感情も乗るので楽しかったです。

-共演者は、広瀬さんが過去にドラマや映画、CMなどでご一緒された方が多かったですが、やりやすかったですか。

 過去に共演した中でも特に仲のいい方々なので、支えてもらっているという安心感がありましたが、実の姉(広瀬アリス)と一緒にお芝居をするぐらいやりづらかったです(笑)。リリー(・フランキー)さんは中学生の頃から知っていて、今回が5回目ですが、ちゃんとした絡みのお芝居は初めてだったので、すごいやりづらかったです(笑)。(中川)大志くんは唯一同い年で、普段は天陽くん(吉沢亮)となつみたいな同志のような関係なので、「わたしたちで夫婦役って不思議だね」と話していました。特別感のある大好きな方々に囲まれて幸せだったから、楽しい感じが勝っていたのかもしれませんね。

-朝ドラヒロインという貴重な経験を通して、成長や変化を感じますか。

 演じる年齢の幅が広がりました。役の年齢に合わせてしゃべり方やトーンを変化させることは今まで経験がなかったので勉強になりました。あとは、何でもできる自信がついたし、体力なら誰にも負けない気がします!

-脚本の大森寿美男さんは、本作は「なつの成長記であり、ホームドラマ」とおっしゃっていましたが、それぞれの家族にどのような思いを持っていましたか。

 なつのベースは北海道・十勝の柴田家で作られたから本当の家族のように思っていたけど、やはり血がつながっていない故の壁があって、普通だったら家族に対していちいち抱かない“感謝”の念があり、少しかしこまっていた気がします。東京・新宿の風車は、実のお兄ちゃん(岡田将生)がいたから楽で、多少乱れても大丈夫だったから、立ち居振る舞いが一気に変わったと思います。亜矢美さん(山口智子)のハイテンションもあって、気持ちのいい環境でした。でも、一番居心地がよかったのは、自分で選んだ男性と開拓した坂場家です。言いたいことも遠慮なく言えるし、感情も出せるし、ここが自分の帰る場所なんだな…と実感しました。

-現代にも通じる子育て問題も描かれて反響がありましたが、広瀬さんはどのように考えますか。

 本来、子どもができてからの生活をちゃんと考えてから子どもを作らなければいけないのに、なつは妊娠が分かってからも「仕事を辞めたくない」とか言っていて、それに対してどういう反響があるのか気になっていました。私は、母親なのに自分がやりたいことを優先するのはどうだろう? と考えていたので、なつに共感する方がいて驚きました。でも今は、やっぱり自分のやりたいことを捨てるのは勇気がいるし、自分もできるかなんて想像がつきません。そういう状況で、どちらが正しいかなんて一生考えても答えが出ないような難しい問題だと思いました。だから、全国のお母さんはすごいなぁと思います。劇中、「子どもを犠牲にしてでも働きたいか?」と投げ掛けられるシーンがありますが、「犠牲かぁ…」とその言葉の重みを数日引きずりました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top