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4月28日公開の『せかいのおきく』は、日本映画界の大黒柱・阪本順治監督が30作の節目に挑んだ初のオリジナル時代劇。江戸の片隅でたくましく生きる若者たちを描いた鮮やかな青春群像劇となっている。本作で、ある事件で声を失った主人公・おきく(黒木華)と知り合う青年・中次(ちゅうじ)と矢亮(やすけ)を演じたのは、昨年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で強い印象を残した寛一郎と、話題作『シン・仮面ライダー』に主演した池松壮亮。本作で初共演を飾った2人が、撮影の舞台裏や作品に込めた思いを語ってくれた。
寛一郎 壮亮さんとは僕がまだ役者になる前の10代の頃からの付き合いで、たまに会うと「調子どう?」と聞いてくれたりしていたんです。僕はその頃から大好きだったので、今回、共演できたのはうれしかったですし、そのすごさを間近で感じることができて幸せでした。同時に、俳優として尊敬している方なので、緊張もありました。
池松 寛(=寛一郎)に対する気持ちは、他の俳優と接するときと比べて、ちょっと特別なものがあります。僕は(寛一郎の父・佐藤)浩市さんにたくさんのことを教わって育ってきたような感覚があるので、どうしても浩市さんがちらつくんです。それはもう、寛が持っている“定め”だと思います。寛との共演は、普段とは違った、親戚の子と共演するような感覚です。今回は特に、そういう感覚を利用しながら、2人で楽しく矢亮と中次の関係を作っていけたらと思いました。
寛一郎 当時のことは一通り調べましたが、その中の関係性や彼らの時代精神的なものは、基本的に今日を生きる僕らと変わらないようにしました。というのも、生きることに対して、自分の意志とは関係なく、抵抗不可能な暴力性みたいなものが世の中には常にありますよね。そういうものを抱えながら生きていくのは、今日を生きる僕らも、あの時代を生きていた彼らも、本質的には変わらないんじゃないかなと。せりふも時代劇っぽくないですし、割と自然体だった気がします。
池松 時代劇でありながら、あくまで現代の物語であることが重要だと思います。寛と一緒に、あの時代に生きていた2人を、情緒を転がしながら、だらしなく、情けなく、けれども直剣に、純粋に、濁らずに、懸命に、軽やかに、生きている姿を演じたいと思っていました。
寛一郎 矢亮と中次の関係性も、特別に何かしたわけではなく、自然と出来上がっていった感じですよね。
池松 脚本プラス、そのときに出てくるものをチョイスしながらやっていきました。雨宿りしていたらたまたま出会ったかけがえのない相棒です。「ゴドーを待ちながら」(サミュエル・ベケットの名作戯曲)みたいになったらいいなと思いました。2人とも何かを待っているんだけど、それが何かは分からない。あるときは、たまたまおきくに出会う。そしてまた何かを待っている。次の季節かもしれないし、次の良き時代かもしれません。
寛一郎 それは最初に言っていましたね。「これ、ゴドーだ」って。
寛一郎 矢亮は、僕や中次よりもうちょっと上の世代なんですよね。世の中に対して何かしてやろう、なんでもいいから、金持ちになりたい、みたいなある種のバイタリティーがある。でも、中次にはそういうものは特になく、生きることにあまり執着がない。そういうところはたぶん、僕より下の人たち、もっと世の中に対してニヒリズムを抱いていて、何かを感じにくい世代に通じるものがあると思います。ただ、そんな中次も、おきくと出会ってだんだんと生きる意味を見いだしていくんですけど。
池松 いつの時代も人は何かを感じていて、そして繰り返します。それが今の時代にも通じるということなんだと思います。自分たちが今感じていることを持ち寄ってあの頃にさかのぼる。それが、物語を伝えることの価値だと思います。
寛一郎 すごく面白い視点だと思いました。日本にあった素晴らしい文化の一つとして、こういう人たちがいたことを知ってもらういい機会になりますし。
池松 江戸時代に衣食住の全てでリサイクル・リユースする、ほぼ完全な循環型社会が出来上がっていたということに驚きました。人間が生きる上で、“うんち”がいかに貴重だったか。循環が、生きることに直結していたんだと思います。汚穢屋という設定から、階級制度や循環というものをテーマに置きながら、命も、自然も、生活も、経済も回っていたことを教えてもらえる映画になったと思います。
寛一郎 当時、日本に来たヨーロッパの人たちが「こんなにきれいな町はない」と驚いたぐらい、江戸の町は清潔だったそうです。というのも、ヨーロッパではふん尿を道に投げ捨てていたらしくて。当時の日本人にしてみれば、汚いだけでなく、そんなもったいないことはない。「どこのふん尿が高いか」というランキングまであったそうですから(笑)。武家は思ったより安くて、4位か5位ぐらい。一番高いのは女郎屋だったとか。
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