内野聖陽「演技にとって大事なことを思い出させてくれた」シェイクスピアの「リア王」に挑む謎めいた主人公を熱演「連続ドラマW ゴールドサンセット」【インタビュー】

2025年2月21日 / 11:00

-そう考える理由は?

 「ごっこ遊び」と言いながら、そこに本当の気持ちを込めることができるのが演劇です。それによって、人間は一つ脱皮できる気がします。しかも、最終的には「うそです」と言える逃げ道も用意されている。人って、どこかで役割を演じて生きていますが、それを全うできず、つらくなる時もあると思うんです。でも、演劇にはきちんと終幕があるので、演じ切ることができ、カタルシスを得られる安全性がありますし。

-なるほど。

 だから、素人の方にこそ、演劇をお勧めしたいですし、かつて蜷川(幸雄)さんが立ち上げたように、シニアの市民劇団がもっと増えてもいいんじゃないかなと。この作品を経験し、さらに強くそう思うようになりました。

-市民劇団を舞台にした本作を通じて、内野さんご自身の演劇に対する考え方が影響を受けた部分はありますか。

 僕も含め、プロの俳優はキャリアを重ねると、「らしく」見せるテクニックをたくさん持つと思うんですけど、お客さんが感動するのは、そこではないんですよね。その裏に、その人自身が持つ心の真実が重なったとき、迫真性が出て、すさまじい表現になる。僕も蜷川さんの舞台でシニアの役者の方とご一緒したことがありますが、長年の人生経験から醸し出される深みや味わいには、せりふなんか必要ないくらいの説得力があるんです。だから、いくら熟練しても、それに安住しないエネルギーが必要になる。演技にとって大事なそういったことを、改めて思い出させてくれました。

-全6話を通して、阿久津とつらい過去を秘めた中学生・上村琴音の交流が描かれるのも本作の見どころです。琴音を演じるのはNHKの連続テレビ小説「おちょやん」(20~21)や「虎に翼」(24)でも活躍した毎田暖乃さんですが、共演はいかがでしたか。

 阿久津は不愛想な男ですが、実は子どもながらに自分と似た境遇を抱える琴音を見守る優しさを秘めています。ただ、外界と語れないという大きな足かせがあったので、その気持ちをどう表現すればいいのか、だいぶ悩みました。言葉といえば、「リア王」のせりふしか出てこない人ですから。最終的には、彼女の前で、必死に戦っている老いた姿を見せることだなと思ったので、彼女との触れ合いは言葉を超えたものだったような気がします。役柄的なこともあり、僕自身は現場で毎田さんとあまり話はしませんでしたが、大変な役にもかかわらず、くじけずに頑張っている彼女の姿に、大いに刺激を受けました。

(C)白尾悠/小学館 (C)2025 WOWOW INC.

-シリアスな物語でありながら、阿久津と琴音の間にユーモラスな空気が漂っているあたり、人間味があふれていて、親しみを感じます。

 シナリオの時点から、2人の間にユーモラスな匂いが感じられたので、そこは大事にしたいと思っていました。

-年の離れた阿久津と琴音の交流を通じて、どんなことを感じましたか。

 最初に大森監督から「若い世代へ受け渡していく話」とお聞きし、僕自身もふに落ちるものがありました。ただし、「受け渡す」からといって、抜け殻になるのではなく、最後まで熱量高く生きざまを見せていかなければいけないなと。50代に入って僕も、周囲からベテラン扱いされる機会が増えてきました。でも、そこにあぐらをかくことなく、新人に負けないくらいの魂でぶつかっていかなければ、見ている人は納得しませんよね。逆に、たとえ新人の方と芝居をするときでも、きちんと1人の役者さんとして向き合わなければ、と思っています。

-まさに、阿久津と琴音の関係にも通じるお話です。

 世の中に完璧な人間はいません。それでも、親や先輩が踏ん張りながら生きる背中を見て、若い人は何かを感じとっていくんじゃないかと思うんです。だから、立派なアドバイスはできませんが、僕自身も苦闘しながら生きていくしかないのかなと。その点、この作品も僕にとっては挑戦だったので、できるだけ多くの方にじっくり味わっていただきたいですし、ご覧になった皆さんの忌憚(きたん)のないご意見をぜひお聞きしたいです。

(取材・文・写真/井上健一)

(C)白尾悠/小学館 (C)2025 WOWOW INC.

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

黒崎煌代 遠藤憲一「新しいエネルギーが花開く寸前の作品だと思います」『見はらし世代』【インタビュー】

映画2025年10月15日

-団塚監督の印象は? 遠藤 出来上がった映像を見て、びっくりしました。予想だにしないアングルがあったり、編集にも想像がつかないような斬新さがあって面白かった。監督は、撮影中に何か言う時も、この若さでと思うぐらいとても適切でした。言うことが全 … 続きを読む

草なぎ剛「今、僕が、皆さんにお薦めしたい、こういうドラマを見ていただきたいと思うドラマです」「終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-」

ドラマ2025年10月14日

-日々の撮影を乗り切るリラックス方法、元気と健康の秘訣(ひけつ)は?  食事、睡眠、運動にはもちろん気を遣っています。ただ大事なのは、心の持ちようだと思います。「5時間しか寝ることができなかったじゃなくて、5時間も寝ることができた」とかね。 … 続きを読む

川島如恵留「僕にとって一番の幸福は、メンバーといられること」 初の単独主演舞台に挑む【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年10月13日

-本作の公演中の11月22日には31歳の誕生日を迎えますね。  公演中に誕生日を迎えられるのは幸せです。去年の誕生日は本を出版させていただき、イベントを行わせていただきましたが、今年は舞台俳優として過ごさせていただきます。カーテンコールなど … 続きを読む

妻夫木聡、佐藤浩市「この物語は馬と人の継承を描いていると感じました」日曜劇場「ザ・ロイヤルファミリー」【インタビュー】

ドラマ2025年10月12日

-クランクインして2カ月ほどたちましたが、撮影の様子を教えてください。 妻夫木 皆さん本当に家族のように過ごしながら撮影しています。僕自身、1日1日が過ぎるたびに「このシーンはもう二度とやらないんだな」と寂しさを感じるくらいで、それほど毎日 … 続きを読む

中村ゆり「草なぎ剛さんは包容力があって“人の痛み”が分かる方」 ドラマ「終幕のロンド」【インタビュー】

ドラマ2025年10月10日

-本作は「遺品整理」がテーマで、ドラマを見た視聴者も生や死について考えさせられる作品になると思います。この物語を通じて“死ぬこと”や“生きること”について、考えたことがあれば教えてください。  今回の作品に携わることで“死ぬときに何が残るの … 続きを読む

Willfriends

page top