根岸吉太郎監督「誰も見たことがない広瀬すずが映像に現れていると思います」『ゆきてかへらぬ』【インタビュー】

2025年2月20日 / 08:00

 大正時代の京都と東京を舞台に、実在した女優・長谷川泰子(広瀬すず)と詩人・中原中也(木戸大聖)、文芸評論家・小林秀雄(岡田将生)という3人の男女の愛と青春を描いた『ゆきてかへらぬ』が2月21日からTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開される。本作の根岸吉太郎監督に話を聞いた。

根岸吉太郎監督 (C)エンタメOVO

-『ヴィヨンの妻 ~桜桃とタンポポ~』(09)以来16年ぶりの新作ですが、まずこの映画を作ることになった経緯からお願いします。

 『ヴィヨンの妻』は、脚本の田中陽造さんとは3本目のコンビ作だったのですが、それが終わった後に、そういえば陽造さんが昔書いてみんなが傑作だとうわさしている『ゆきてかへらぬ』というのがあると。読んでみたらさすがに傑作だなと。今までなかなか映画化にこぎ着けられなかったみたいだけど、ぜひやってみたいと思いました。それで陽造さんやプロデューサーの山田美千代さんとも話して、『ヴィヨンの妻』の成果もあるし、やってみようという話になりました。それが6年ぐらい前でしょうか。

-では、完成までに随分と時間がかかった感じですね。

 そうですね。やっぱり非常に描くのが難しい時代というか、この時代をきちっと作り出すには、それなりの資金もいるし、あとは、キャスティングもあの3人がそろわないと…。そんなことがあって時間がかかりました。

-脚本ありきで始まったわけですね。

 そうです。ただ、何せ40年ぐらい前に書かれたものなので、読み物としてはよくできているけど、今の時代に、実際に若い俳優さんを使ってこれをそのままやるのはどうかなと。それこそ陽造さんと鈴木清順さんがやっていたような、ある種の大正ロマンみたいなことではなくて、あの時代の若者の葛藤やぶつかり合いみたいなことをきちっと描きたいと思ったので、そっちの方向にかじを切って、本直しをしてもらいました。

-脚本を読む中で、大正時代に引かれるものがあったのですか。

 映画に直接関係はしていないけれど、日本の歴史の中では珍しくデモクラシーみたいなことに対して、みんなが目覚めて動いた時代。同時に、その逆の動きとして戦争に向かって刻々と軍靴の音が響いてくる。その節目として関東大震災があった。そんな時代背景を取り込むという手もあったかなとは思いますが、今回は3人を浮かび上がらせるために、そういうものを省いて進めました。でも時代的にはそういうことも含めて、非常に特殊な時代で面白いと思います。

-この映画は田中陽造さんのオリジナル脚本ですが、昔の文芸映画の雰囲気がありました。そこは狙いの一つでしたか。

 特にそういう意識はしませんでした。ただ、文芸的ということで言えば、陽造さんのシナリオはせりふも含めて、今時耳にしないような美しい日本語で書かれているんです。そのことがそういう印象を与えるのかもしれないですね。

-CGではなく昔の映画のようにセットを組んで撮っていることに驚きました。そのセットの色使いや衣装、小道具などがとても印象に残りましたが、そこには監督の強いこだわりがあったのでしょうか。

 もちろん僕のこだわりもありますが、美術監督の原田満生さんがしっかりと狙いを示してくれました。そういう意味で、原田さんだけではなく、スタッフにも恵まれたと思います。少し前までの日本映画だったらそんなに驚かれるようなものではないけれど、今はある程度のセットを組んでも驚かれる時代になりました。CGを否定するわけではありませんが、役者がその気になって演技ができる場所が必要だというのが一つ。あとは、セットで作り切れないところをCGでやるということはあっても、CGで作り切れないものをセットにするという考え方はあまりないです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

水樹奈々「神様が与えてくださった新たなチャレンジの機会」女性狂歌師役で大河ドラマ初出演【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年6月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。5月25日放送の第20回「寝惚(ぼ)けて候」で蔦重は、江戸で人気の“ … 続きを読む

芳根京子、6年ぶりの舞台出演「絶対に楽しい作品になるという自信がある」 「先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月30日

 6月8日から開幕する「先生の背中~ある映画監督の幻影的回想録~」で、芳根京子が6年ぶりに舞台に挑む。本作は、映画監督として知られる行定勲が、中井貴一とともに昭和の映画界を演劇で描く舞台作品。日本映画界を代表する監督の一人である小津安二郎を … 続きを読む

【週末映画コラム】唯一無二の女優の生涯を追った『マリリン・モンロー 私の愛しかた』/老女版のミッション・インポッシブル『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』

映画2025年5月30日

『マリリン・モンロー 私の愛しかた』(5月30日公開)  ドラマや劇映画、ドキュメンタリーなど、今もさまざまな形でその生涯が描かれる女優マリリン・モンロー。この映画の監督イアン・エアーズは、10年以上にわたる調査とインタビューを経て完成させ … 続きを読む

奥平大兼、出口夏希、佐野晶哉、菊池日菜子、早瀬憩「みんながいやすい空気をつくってくれた」青春映画で共演の5人が舞台裏を振り返る『か「」く「」し「」ご「」と「』【インタビュー】

映画2025年5月29日

 自分に自信のない高校生の京は、同じクラスの「ヒロインよりヒーローになりたい」という人気者ミッキーに憧れながらも、親友のヅカがミッキーと幼なじみのため、“友だちの友だち”で満足していた。ところが、内気で繊細なエルの不登校をめぐり、京とミッキ … 続きを読む

「なんで私が神説教」第7話で活躍した期待の若手俳優・林裕太に注目!【コラム】

ドラマ2025年5月25日

 学園ドラマと言えば、若手俳優の登竜門。現在、第一線で活躍する人気俳優の多くも、若手時代に学園ドラマで生徒役を経験している。小栗旬、伊藤沙莉、松岡茉優、土屋太鳳、北村匠海など、名を挙げれば枚挙にいとまがない。いわば学園ドラマは「金の卵の宝庫 … 続きを読む

Willfriends

page top