【インタビュー】舞台「フリムンシスターズ」松尾スズキ「人を前にして笑わせたい、ということにこだわっているんだと改めて思いました」

2020年10月18日 / 06:00

 松尾スズキが、作・演出を務めるCOCOON PRODUCTION 2020「フリムンシスターズ」が10月24日から開幕する。本作は、故郷・沖縄での忌まわしい過去を記憶から消し去り、東京の西新宿で暮らす女と、そこで出会った絶不調のミュージカル女優、女優の親友のゲイら、“狂った人間(フリムン)”たちが歌って踊るエンターテインメント。長澤まさみ、秋山菜津子、阿部サダヲらが出演する。松尾に、本作が誕生したきっかけや、本作に込めた思いを聞いた。

作・演出の松尾スズキ(ヘアメイク:遠山美和子(THYMON Inc.)/スタイリング:安野ともこ(CORAZON))

-シアターコクーンでは4年半ぶりの新作になりますが、本作はどんな発想から生まれた作品ですか。

 コクーンの芸術監督になって、新作を書き下ろそうとなったときに、ミュージカル「キャバレー」でご一緒した長澤さんに新作を書きたい、という思いがまずありました。同時に、秋山さんともしばらく新作をご一緒していなかったので、秋山さんを加えて、阿部を入れた3人が柱になる音楽劇をやれたらというのがスタートでした。女性同士の友情の話が好きなので、そういった話を書きたいな、という思いもあったんです。

-個性豊かなキャラクターたちはどのようにして出来上がったのですか。

 秋山さんは、僕が以前に撮った映画『108〜海馬五郎の復讐と冒険〜』という作品で、砂山美津子という、たちの悪い女優の役を演じてくれたのですが、その美津子が、今度は舞台に立ったらどうなるだろうというところから生まれました。そこに、その女優のファンだった女と、その女優にこびへつらってお小遣いを巻き上げようとしているゲイが登場し、絡んでいくことで、ファナティックな状態になっている瞬間を書きたかったんです。

-タイトルにある「フリムン」という言葉は、どこから生まれたのですか。

 「友情が沸騰する瞬間」の精神状態を表す言葉として使ったのですが、これは(島尾敏雄の)『死の棘』という小説に出てくる言葉で、 “何かに取りつかれたような状態”を指すそうです。この物語を考えていたときに、その言葉を思い出して、長澤さんの役は沖縄出身なので、同じ沖縄の言葉を使うのは面白いな、と。

 そこからさらに発展していき、沖縄出身の女性を登場させるならば、「ユタ」というシャーマンの存在を出そうと考えました。ユタは、先祖や霊の存在が日常生活の中に混在しているような状態の方々ですが、そういう方が実際に沖縄にいるということが僕にはすごく不思議で、同時にすごく面白い。それで、長澤さんは沖縄出身で、先祖にまとわりつかれて面倒くさい状態になっている女という設定が出来上がりました。秋山さんは、昔、自分の妹を車ではねてしまった、というトラウマを持っている女優。阿部は、10年前に2億円の宝くじを当てたのに、それを恋人に持ち去られてしまったゲイ。どこか欠落を抱えている3人がそろったときに、化学反応を起こして大きな生命のエネルギーを生むという話が、そこから出来上がりました。

-ミュージカルとして描いたことにはどんな狙いがあるのですか。

 もともとコクーンで、いろいろな生音が入る舞台を試していたんです。それは「キレイ-神様と待ち合わせした女-」から始まったものだったのですが、「キレイ」から20年たち、ここで試行錯誤の答え合わせをしたいという思いがありました。それで、もう1作ぐらいは本格的なミュージカルを作りたいと考えていたのですが、今回、新型コロナウイルスの影響で、図らずも時間がたっぷりできてしまい、音楽劇というには歌が多過ぎるほどできてしまったので(笑)。それで、今回はミュージカルと名乗ることで、自分の退路を断って作り上げることにしました(笑)。

-普段よりもたっぷりと時間をかけたことで、手応えも大きいのでは?

 いや、日々、状況が変わっていたので、書いては直して、書いては直して…の繰り返しでした。書いているのは、未来でも過去の話でもない、現在の話だったので、「今」が動き続けているというのは、大変な状況でした。その時々の僕の気分はどうしても反映されるものなので、情勢が変われば気分も変わってしまう。今年は、劇作家殺しの1年です(笑)。

-では、長澤さん、秋山さんには、どのような期待がありますか。

 秋山さんは、本格的なコメディー演技は久しぶりだと思います。長澤さんに至っては、もしかすると初めてかもしれない。でも、長澤さんは「キャバレー」でご一緒した時も、台本にないギャグで毎回、笑いを取っていたので、コメディーセンスがすごくある方だと思います。本気でばかをやったら絶対に面白くなるという確信があります。

-阿部さんについてはいかがですか。

 このところ、コクーンで阿部とやるときは、テーマを仕込んだ、重いものを背負う役が多くなってきたので、今回はコメディーセンスを全開にしたものを見せてもらいたいと思っています。切ない部分もありつつ、阿部が笑わせるところをいっぱい見たいと思って、そういうせりふをたくさん入れています。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

井内悠陽「自分を貫くことは大切。でも、時には柔軟性も必要」 映画『爆上戦隊ブンブンジャー』で映画初主演を飾る20歳の新星【インタビュー】

映画2024年7月27日

 7月26日から公開中の『爆上戦隊ブンブンジャー 劇場BOON! プロミス・ザ・サーキット』は、テレビ朝日系で大人気放送中のスーパー戦隊シリーズ第48作「爆上戦隊ブンブンジャー」初の劇場版だ。本作でブンブンジャーのリーダー、ブンレッド/範道 … 続きを読む

田中真弓「70歳、新人のつもりで頑張っています」憧れだった朝ドラレギュラー出演 連続テレビ小説「虎に翼」【インタビュー】

ドラマ2024年7月26日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「虎に翼」。新潟地家裁三条支部に赴任し、娘・優未(竹澤咲子)と2人だけの暮らしに苦労する主人公・佐田寅子(伊藤沙莉)を助けるため、かつて花江(森田望智)の家で女中として働き、第7週で故郷の新潟に帰った稲が … 続きを読む

真彩希帆、憧れの「モーツァルト!」でコンスタンツェ役 「この作品を見に来て良かったと感じていただきたい」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2024年7月26日

 「才能が宿るのは肉体なのか?魂なのか?」という深遠なテーマをベースに、その高い音楽性と重層的な作劇で“人間モーツァルト”の35年の生涯に迫る、ミュージカル「モーツァルト!」が、8月19日から帝国劇場にて上演される。2002年の日本初演以来 … 続きを読む

【週末映画コラム】歴史の「if」を描いた2本『もしも徳川家康が総理大臣になったら』/『お隣さんはヒトラー?』

映画2024年7月26日

『もしも徳川家康が総理大臣になったら』(7月26日公開)  新型コロナウィルスがまん延した2020年。首相官邸でクラスターが発生し、総理大臣が急死した。かつてない危機に直面した政府は、最後の手段として、歴史上の偉人たちをAIホログラムで復活 … 続きを読む

鈴木梨央「特撮映画の魅力を実感しました」子役時代から活躍してきた若手俳優が、ファンタジー映画に主演『カミノフデ ~怪獣たちのいる島~』【インタビュー】

映画2024年7月25日

 高校生の時宮朱莉は、謎の男・穂積(斎藤工)と出会い、特殊美術造形家だった亡き祖父・時宮健三(佐野史郎)が制作を望んだ映画『神の筆』の世界に入り込んでしまう。怪獣ヤマタノオロチによって、その世界が危機にひんしていることを知った朱莉は、同級生 … 続きを読む

Willfriends

page top