【インタビュー】映画『彼女は夢で踊る』加藤雅也「低予算の地方の映画に出るときは、普段とは違うキャラクターが演じられることに意義がある」

2020年10月19日 / 06:03

 広島の老舗ストリップ劇場に閉館の時が迫っていた。社長の木下(加藤雅也)は、過去の華やかな時代や、自らの若き日(犬飼貴丈)の恋に思いをはせる。『シネマの天使』(15)で、閉館する実在の映画館を描いた時川英之監督が、今回は広島に実在するストリップ劇場を舞台に、現在と過去を交差させながら、主人公の心境や、ストリッパーたちの心意気を描いた『彼女は夢で踊る』が、10月23日から新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーとなる。本作でストリップ劇場の社長を演じた加藤雅也に、映画への思いや、役作り、広島の印象などを聞いた。

ストリップ劇場の社長を演じた加藤雅也

-今回は企画の段階から参加したそうですが、どのような経緯だったのでしょうか。

 ちょうど自分がDJの仕事を始めた頃に、時川監督と横山雄二さんの『ラジオの恋』(14)という映画があることを知って、興味を持ちました。それで監督とお会いして縁ができました。それから1年後ぐらいに、たまたま映画のキャンペーンで広島に行って再会したときに、横山さんから「老舗のストリップ劇場が閉館する」という話が出ました。それで「映画の役割の一つとして、みんなの思い出の場所である建物を映像の中に残すというのがある。それをやってみないか」となったのが始まりです。

-これまでにないストリップ劇場の社長役。もじゃもじゃ頭に、眼鏡にひげ、広島なのになぜか関西弁と、随分と作り込んだ印象を受けましたが。

 言葉は、実際の館長が大阪から広島に来た人なので特に作ってはいません。でも外見は、僕が「これならストリップ劇場の館長に見えるかな」とイメージした形で作りました。それと、こういう役は、東京のメジャーの作品では僕にオファーは来ません。なので、こういう地方発信の映画でお話を頂いたときは、普段とは違うキャラクターが演じられることに意義があるわけです。「こんな役もやれる」というプレゼンテーションの意味もあります。だから、いつもと変わらない風貌で、同じようなことをやったのでは面白くないし、役者としていろいろな形を表現する、という意味ではプラスになると思います。今回はいろいろなことが表現できたので、やっていてとても楽しかったです。

-自分の若き日を演じた犬飼貴丈さんの印象は?

 事務所の後輩でもある犬飼が出ていた昼ドラを見たときに、「透明感があって、日本にはあまりいないタイプの俳優だ」と感じました。それで、「この役には彼が合っていると思うから一度会ってみて」と監督に推薦しました。監督は別の人にも当たっていましたが、犬飼と会った瞬間に「この人でいきます」と。犬飼はまだ「仮面ライダー」に出る前でしたが、彼の持っている純粋さがよく出ていたと思います。それで、同一人物なのに、犬飼と僕の表現が違い過ぎると言われたら、その通りなんですが、純粋にストリップや踊り子を愛した人間が、僕が演じた人間になるまでの何十年かの間には紆余(うよ)曲折があるので、それが同じではおかしいわけです。変わるところに人生が見えるので、今回は彼の持つ純粋さがなければ駄目だったと思います。

-実際の劇場で撮影したこともありますが、とても広島の街に溶け込んでいる感じがしました。撮影をしながら、土地の持つ力のようなものを感じましたか。

 それは感じました。長く住んだわけではありませんが、ずっと劇場の近くのホテルに寝泊まりしていましたし、ほとんどのスタッフやエキストラが広島の人だったので、その人たちの持っている雰囲気や言葉の中で、食事をしたり、話をしたりするわけですから、知らず知らずのうちに感化されたのでしょう。例えば、外国に行って、特に意識しなくても、その土地や言葉になじんでいくのと同じような感覚です。人間は無意識に目や耳から入ってくるものを吸収しますから。

 それと、広島の街には、この映画が必要としたエネルギーがありました。街によって違う空気感やエネルギーがあるので、地方で撮影をするときは、それを感じ取ることが大切になります。街の持つ力は大きいです。また、音楽と同じように、その街の持っているリズムを捉えることが、そこに溶け込むことにもつながるので、今回は、広島の街のリズムをつかんでしまえば、短い期間でも大丈夫だったのかなと思います。

-リズムと言えば、劇中で加藤さんが松山千春さんの「恋」を口ずさむ姿と、ラストのレディオヘッドの「クリープ」に乗って踊る姿がとても印象に残りました。

 「恋」は、千春さんがまだ売れなかった頃に、ストリップ劇場でアルバイトをしていたこともあったので、使わせてくださったそうです。ラストのところは、実際に「クリープ」を流しながら撮りました。実はまだ曲の使用権が取れていなかったのですが、もし他の曲になっても踊り方は変わらなかったと思います。あれは「俺は世の中の流れなんかには合わせない」というメッセージも込めて、自分の独自のリズムで狂ったように踊ったので。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

石橋静河「皆さんに『一歩前進してみようかな』と思っていただけたら」連続テレビ小説主演に懸ける思い【連続テレビ小説「ブラッサム」インタビュー】

ドラマ2026年9月26日

 9月28日から2026年後期連続テレビ小説「ブラッサム」が、NHKで放送開始となる。主人公は、明治、大正、昭和を駆け抜け、自由を求め続けた作家・宇野千代をモデルにした葉野珠。彼女が苦難の中でも「幸せのかけら」を見つけ、常に前に進むことで人 … 続きを読む

【映画コラム】戦争が終わった後に残るものは…『ハート・オブ・ビースト』『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』

映画2026年9月25日

『ハート・オブ・ビースト』(9月25日公開)  かつて陸軍特殊部隊で生死を共にした退役軍人のジェームズ(ブラッド・ピット)と、元軍用偵察犬で義足のオーディン。戦場を離れた現在も、彼らは相棒として深い絆で結ばれていた。  ところがアラスカ上空 … 続きを読む

市川團十郎、市川新之助「こういう形で記録に残せたのは非常によかったと思います」【インタビュー】『襲名』

映画2026年9月24日

 十三代目市川團十郎白猿の襲名と八代目新之助の初舞台を正面から捉えた、三池崇史監督のドキュメンタリー映画『襲名』が、9月25日から全国公開される。映画の公開を前に、團十郎、新之助親子に話を聞いた。 -まず、映画を見て感じたことから伺います。 … 続きを読む

尾上松也「金田一耕助を演じる喜びがふつふつと」奥智哉「今の時代にふさわしい作品に」名作ミステリー映画で共演『八つ墓村』【インタビュー】

映画2026年9月18日

 横溝正史原作の名作ミステリーが、令和の時代によみがえる!これまで繰り返し映像化されてきた『八つ墓村』が装いも新たに映画化され、9月18日から全国公開となる。  岡山県の山奥にひっそりとたたずむ八つ墓村で起きる連続殺人の謎に、名探偵・金田一 … 続きを読む

有村架純、石田ひかり、姫野花春「見終わった後ですごく幸せな気持ちになれる映画です」『さとこはいつも』【インタビュー】

映画2026年9月18日

 沖田修一監督が、年齢も育った環境も異なる3人の「さとこ」という女性の人生が交差していく様子をオリジナルストーリーで描いた『さとこはいつも』が、9月18日から全国公開。本作で、35歳の沙都子を演じた有村架純、55歳の里子を演じた石田ひかり、 … 続きを読む

page top