エンターテインメント・ウェブマガジン
室町幕府第13代将軍・足利義輝(向井理)が暗殺され、京では後継者争いが繰り広げられる中、久しぶりに母を連れて故郷・美濃へと戻った明智光秀(長谷川博己)。併せて、岐阜城で織田信長(染谷将太)と対面した光秀は、再び激動の時代へと身を投じていくこととなる。そんな光秀を温かく見守るのが、母親の牧だ。演じる石川さゆりが、撮影の舞台裏や現場で感じたことなどを語ってくれた。
私が「みんな馬に乗るシーンがあって格好いいな。馬に乗りたいな…」と言ったことがあるんです。そうしたら今回、ああいうシーンがあって。私がポロッと言ったことから、あのシーンを作っていただけたのだとしたら、「皆さん、愛をありがとう!」という感謝の気持ちでいっぱいです。十兵衛(=光秀)が馬を引いてくれて、私は乗っているだけでしたので、怖くはありませんでした。馬がとてもかわいかったです。
「麒麟がくる」では、歴史や戦など、さまざまな出来事が描かれる中に、いろいろな家族の物語も含まれています。その例が、信長や(斎藤)道三の家族ですが、そこでは親が子を殺すか、子が親を狙うか、兄弟を狙うか、という恐ろしい姿が何度も繰り返されてきました。その中で唯一、穏やかで安らげるのが明智家。明智家だけは「こんなところがあったんだ」とホッとできる。だから、そういうものを皆さんにお届けできたら…と思っています。
苦労と感じることはなく、楽しいことばかりです。もちろん、初めての空気感の中でお仕事することには緊張感や戸惑いもありますが、とにかくスタッフに情熱がありますし、皆さん優しいですから。同じエンターテインメントでも、ドラマには、音楽と違う“人間エンターテインメント”みたいな感じがあり、それが心地よく、楽しいです。私はどうしても、声も音楽に聞こえてしまうのですが、お芝居でも、せりふを交わす中にちゃんと音があるんだと気がつきました。いろんな声があり、そこに感情の間合いやテンションの音がある。自分が今度、音楽の世界に戻るとき、そこで感じたものをちゃんと持って帰りたいと思っています。
かつらを着けて演じるよりも、よりナチュラルに十兵衛の母になっていけるのかな…と思ったんです。髪が長くなってきたところで、「地毛でもいけるかも」と思い、床山さんに相談してみたところ、「もう少し頑張っていただけたら」と言われたので、やってみました。髪が伸びていく中で、お役が自分に染みていき、自分の体の中でも、牧という役がふに落ちていくのを体感しました。
“息子を育てる”というのとは少し違って、しっかりと家を譲って継いでいく、その長となる者を育てていくという感覚です。十兵衛は、いつどこで命を取られるかという日々を過ごして大人になっていきます。だから、帰ってきたときに「おかえり!」と掛ける一言のせりふにも、「けがはしていませんか? 無事ですか?」と、気持ちを込めながら演じています。
第二十五回では、牧を美濃に送り届けた十兵衛に対して「誇りを持って、自分の思うがままに生きなさい。そうする中で、きっと自分のやるべきことが見えてくるはずです」と語るシーンがありました。それを聞いた十兵衛は、「誇りを持って生きていくんだ。自分には土岐源氏の血が流れているんだ。でも、思うがままって、なんだろう?」と葛藤しながら、自分の行く末を見いだしていくのでしょう。そういういいせりふがいっぱいあるので、十兵衛に母としての言葉を、一つずつ置いていっているような気がしています。
最初のうちは、十兵衛も若いので、がむしゃらに感情をぶつけていましたが、さまざまな経験を積んだ今は、男として心の葛藤を抱えながら生きているわけです。だから、長谷川さんと「十兵衛の心の闇なのか、悩みなのかは分からないけど、そういうのを感じるようになってきたよね」とお話ししたりもしました。ちょっと生意気かもしれませんけど(笑)。そういう意味では、この1年半ぐらいの間に、長谷川さんも一人の男の人生をお作りになっているので、見ていてとても楽しいです。
私はいつも、ミュージシャンの方とアンサンブルをしながら音楽を作っています。それに対して、大河ドラマはお芝居の世界で、役者さんがそれぞれの個性でアンサンブルをするのが面白いです。音楽の譜面に当たるのが、ドラマでは台本なのかもしれませんが、音楽と違ってドラマの場合、「こんな感じかな?」と思いながら台本を読み、スタジオに入らせていただいても、他の役者さんとアンサンブルを取ると、突然違う音程や間合いが出てきたりしますから。役者さんはその方の役を作っていますし、そのお役の生きざまみたいなものが、また全然違ったアプローチで絡んでくる。そういうところが、とても面白いです。
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