エンターテインメント・ウェブマガジン
今からおよそ100年前の日本。活動写真と呼ばれ、まだモノクロでサイレントだった映画をより楽しむため、楽士の奏でる音楽に合わせて、自らの語りや説明で映画を彩った活動弁士(通称カツベン)がいた。弁士に憧れる若き青年を主人公に、映画黎明(れいめい)期の群像を描いた『カツベン!』が12月13日から公開される。本作の周防正行監督と、主人公の染谷俊太郎を演じた成田凌に話を聞いた。
周防 今回は初めて自分の企画ではないものを映画化しました。『それでもボクはやってない』から僕の映画の助監督をしてくれていた片島章三さんに、5、6年前かな、「脚本を書いたので読んで意見を聞かせてほしい」と渡されました。僕は学生時代に、小津安二郎監督の『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(32)など、サイレント映画はたくさん見ましたが、音が無くても素晴らしい映画はたくさんあったので、「別に弁士も音楽も要らないじゃないか」とずっと思ってきました。
ところが、片島さんの脚本を読んで、サイレント映画をサイレントのままで見ていた人なんてどこにもいなかったことに気付きました。欧米では音楽の生演奏が付いていたし、日本では生演奏に活動弁士の説明も加わっていた。だとすると、当時の日本の映画監督は、映画が上映されるときに、弁士の説明と音楽があることを前提として映画を撮っていたわけです。つまり、本来サイレント映画は弁士の説明と音楽があって見るのが正しいのではないか、ということです。それで、彼らが映画監督にどんな影響を与えたのか、という意味でも、僕自身が彼らについて考えてみたいと思ったんです。
周防 なおかつ、なぜタイミングとして今なのかというと、映画の定義が変わってきているからです。フランスのリュミエール兄弟が映画の父と言われる理由は、フィルムで撮って、それをスクリーンに投影して、不特定多数の人と一緒に見ることを発明したからです。でも、今はフィルムではなくデジタル撮影で、配信という形で、家でスマホの画面を一人で見るのも映画です。まあ、これを映画とは呼ばせないという人もいますが(笑)。だからこそ、日本で映画がどう始まったのかを今撮らないと、誰もそれを知らなくなってしまう。活動弁士のことなんて誰も知らないのではまずいと。自らの反省の意味も込めて、ぜひ、活動弁士の存在を多くの人に知ってほしいと思ったんです。
成田 僕も一生懸命練習しましたが、改めて、昔も今も、活動弁士をやられている方を心から尊敬します。また、当時、僕が生きていたら、やっていたのかな、とは考えました。でも、成田家は代々それほど裕福ではないので、多分やっていないと思います(笑)。今回は「こういうキャラクターにしよう」という考えはあまりなくて、ただ「カツベンが好き」という気持ちでその場にいればいいと思い、ニュートラルで、フラットな気持ちで臨みました。すると、僕の中でカツベンは普通のことになりました。
周防 (チャールズ・)チャップリンや(バスター・)キートンなどの無声映画を意識して撮りました。例えば、たんすのシーンは、活動写真のアクションの面白さと、この映画の世界観を象徴するものとして、どうしても撮りたかったので、美術さんに無理を言って作ってもらいました。サイレント映画の魅力を皆さんに伝えたいという思いが強くありました。
成田 それほど意識はしていなくて、無意識にやっていました。監督からも「もっと大きな動きを」とか「もっと大げさに」という指示は全くありませんでした。
周防 皆さんが脚本を読んだり、僕の言葉を聞いて、理解して、あえて大きな動きでやってくれたんだろうと思います。
成田 そういう空気感は現場にも流れていて、例えば、(映画館主役の)竹中直人さんの温度感をこちらでキャッチしながらやることもありました。
周防 竹野内さんは、いきなり追い掛けのシーンから撮影に入ったんですが、そのときに、特に指示はしていないのに、「うわ、こんなふうに動いてくれるんだ」と驚きました。なので、もうこの線で作ってしまおうと。僕が竹野内さんの芝居に共感して、そこにいろんなアイデアを足していきました。
映画2025年9月16日
東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む
映画2025年9月12日
ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年9月12日
YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。 ▼無鉄砲小僧、恐れを知らぬ行動力 … 続きを読む
ドラマ2025年9月12日
NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルにした柳井のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)夫婦の戦前から戦後に至る波乱万丈の物語は、ついに『アンパンマン』の誕生にたどり着いた。 … 続きを読む
舞台・ミュージカル2025年9月11日
中山優馬が主演する舞台「大誘拐」~四人で大スペクタクル~が10月10日に再始動する。本作は、天藤真の小説「大誘拐」を原作とした舞台で、2024年に舞台化。82歳の小柄な老婆が国家権力とマスコミを手玉に取り、百億円を略取した大事件を描く。今 … 続きを読む