「熱量高く議論する人たちの思いが、宮藤官九郎さんの言葉の力で僕らにも乗り移ってくる。痛快です」松重豊(東龍太郎)【「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」インタビュー】

2019年11月24日 / 20:50

 オリンピック担当大臣を務める大物政治家・川島正次郎(浅野忠信)と対立した田畑政治(阿部サダヲ)は、インドネシアで開催されたアジア大会参加をめぐるトラブルの責任を取る形で、東京オリンピック組織委員会の事務総長を解任される。このとき、川島と田畑の間で板挟みとなり、結果的に田畑を裏切る形になったのが、互いに“東龍(とうりゅう)さん”、“まーちゃん”と呼び合っていた盟友で東京都知事の東龍太郎。演じる松重豊が、役に込めた思いを語ってくれた。

東龍太郎役の松重豊

-東が東京都知事に立候補したのは、田畑に頼み込まれたことがきっかけでしたね。

 都知事になったのは、幻に終わった1940年の東京オリンピックに関わっていたまーちゃんが、戦後の復興を目指して再びオリンピックを開催しようとした思いに打たれ、覚悟を決めたという展開になっています。「まーちゃんが言うなら何かしなきゃ」と。それぐらいの関係だったのではないかと思いながら演じています。

-やがて2人は、選手村が朝霞から代々木に変更されたことをきっかけに、徐々にすれ違っていきました。

 オリンピックをコンパクトなサイズ感でやりたいというまーちゃんの思いを、東がどこまでくみ取っていたのかは分かりません。都知事という立場になったことで、予算的な話や、政治的な圧力との板挟みで、まーちゃんの理想や信念よりも、「現実を取ろうよ」という気持ちも芽生えたでしょうから。川島やいろいろな人たちが、さまざまな思惑を持ってオリンピックに近づいてくる中で調整をするのは大変なことだったでしょうし。一方、理想論に突き動かされてきたまーちゃんから見れば、そこに温度差を感じるのはしょうがない。だから、政治の世界に片足を突っ込んでしまった東が、まーちゃんとすれ違っていくのは、リアルにあり得た話ではないかと。

-そんな東を、どんな人物だったとお考えでしょうか。

 東大のボート部出身で、医者で、学者肌。人の上に立つようなポジションよりも、一人で何かをすることが好きな方だったのではないかな…と。人間としては魅力的で、愛すべき人。ただ、都知事という役職の重圧は大きかったのだと思います。まーちゃんが組織委員会をクビになった後、一人でボートの練習台に乗って漕ぐ場面もありますが、それがすごく東らしい。その辺り、宮藤(官九郎)さんの脚本は、実にうまいなと。

-その宮藤さんの脚本に対する印象は?

 一番の印象は、せりふが覚えやすいことです。日本語の持つリズムをものすごく意識している作家さんで、しゃべり言葉、音の情報として乗せられている台本なので、大変なせりふも覚えやすい。宮藤さんのホンは、体が水を吸収するようにせりふが入ってくる。それは本当に驚きました。

-そんな宮藤さんの脚本を基に演じる皆さんのお芝居も熱量が高いですね。

 東京オリンピック近くになると、みんな年齢がかなり高いんですよね。登場人物のほとんどが60代、70代。そういう人たちが、つばを飛ばしながら、熱量高く議論し合う思いが、宮藤さんの言葉の力によって僕らにも乗り移ってくる。だから、非常にやりやすいし、痛快です。嘉納治五郎(役所広司)も、最後の方は晩年もいいところだったのに、あれほど熱量を持ってしゃべるジジイ、見たことないぞ…と(笑)。時代を動かしたのは、そういう人たちだったということなんでしょうね。

-ところで、序盤に何度か登場してから、後半で本格的に活躍するまで、だいぶ時間が空きましたね。

 長い待ち時間があったので、その間、完全に視聴者になっていました。でも、視聴者になると感情移入してしまい、よくないなぁ…と。特に、嘉納治五郎。僕は柔道部出身で講道館初段を持っていますが、そんな僕でも、今では嘉納治五郎と聞くと、役所広司さんの顔しか思い浮かびません(笑)。嘉納治五郎本人の写真を見ても、「線が細いな。あの人はもっとゴツいはず」と言いたくなるほどで…(笑)。役所さんとも今までいろいろな作品でご一緒し、ご本人もよく知っているのに、今では役所さんに会うと「嘉納さんだ…」と思って緊張し、どう言葉を掛けていいか分からなくなります(笑)。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【インタビュー】映画『#ハンド全力』醍醐虎汰朗「僕らが普段忘れがちなことをポップな形で気付かせてくれる映画」

映画2020年7月9日

 どうにもならない現実やSNSに翻弄(ほんろう)されながらも、熊本地震復興の盛り上げ役となった高校生たちの青春を描いた映画『#ハンド全力』が、7月31日からシネ・リーブル池袋ほかで全国公開される。SNSに投稿したかつての写真がバズったことか … 続きを読む

【インタビュー】PARCO劇場オープニング・シリーズ「ゲルニカ」上白石萌歌「ゲルニカの人たちに起こったことは決して他人事じゃない」

舞台・ミュージカル2020年7月8日

 演出家の栗山民也と気鋭の劇作家・長田育恵が初タッグを組む、PARCO劇場オープニング・シリーズ「ゲルニカ」が9月4日から上演される。本作は、栗山がスペイン内戦時のゲルニカ無差別爆撃を描いた画家パブロ・ピカソの「ゲルニカ」と出会って以来、温 … 続きを読む

【映画コラム】大人たちの“遊び心”を刺激する『一度も撃ってません』

映画2020年7月4日

 伝説のヒットマン市川進、74歳。だが、実は彼の正体はハードボイルドを気取り、御前零児(ごぜん・れいじ)を名乗る売れない小説家だった…。18年ぶりの映画主演となった石橋蓮司が、二つの顔を持つ主人公をコミカルかつ渋く演じる『一度も撃ってません … 続きを読む

【インタビュー】ドラマ「M 愛すべき人がいて」 マサ役を熱演中の三浦翔平「ぶれずに恥ずかしがらずに」

ドラマ2020年7月4日

 安斉かれん&三浦翔平が主演するドラマ「M 愛すべき人がいて」(テレビ朝日系/毎週土曜午後11時15分から放送中。※ABEMAで独占配信中)が、怒濤(どとう)の展開と役者たちの熱い演技で話題を呼んでいる。本作は、歌姫・浜崎あゆみの誕生秘話と … 続きを読む

【インタビュー】映画『MOTHER マザー』奥平大兼 「まるで別人のような長澤まさみさんに引っ張られて、僕も周平に成り切ることができました」

映画2020年7月1日

 17歳の少年が祖父母を殺害した実在の事件をヒントに製作された衝撃のヒューマンドラマ『MOTHER マザー』が7月3日から全国公開となる。長澤まさみ扮(ふん)する自堕落なシングルマザー秋子のゆがんだ愛情で育てられた息子・周平を演じたのが、本 … 続きを読む

page top