【インタビュー】「盤上の向日葵」千葉雄大 役者であれば“劣化”も必要 「内面をきちんと表現できる役者になりたい」

2019年9月7日 / 17:00

 名駒と一緒に発見された白骨遺体の謎とともに、そこに秘められた、過酷な運命を背負いながらも将棋界で頂点を目指した異端の棋士・上条桂介の半生をあぶりだす本格ヒューマンミステリー「盤上の向日葵」。主演の千葉雄大は、本作で学園ドラマや恋愛映画などで見せる癒やし系“ヌクメン”キャラとは違う一面を披露しており、周囲の人からは「新境地」と言われているそうだが、その胸中は? 撮影エピソードと併せて聞いた。

異端の棋士・上条桂介役の千葉雄大

-本役のオファーを受けたときの率直な感想は?

 将棋に関しては、加藤一二三さんや、藤井聡太さんを知っているぐらいでしたが、脚本がすてきで、主人公の学生時代から大人になるまでの長い人生を演じられることは滅多にないことなので、ありがたく、光栄に思いました。

-実際に将棋の世界に触れてみていかがでしたか。

 小さな盤上で繰り広げられる、命を懸けた真剣勝負なので、対局シーンの撮影は疲れました。指し方も「パンッ」と音が鳴ればいいわけではないし、正解があるわけでもないので、棋士に見えるように家で何度も練習しました。将棋会館で対局を見せていただく貴重な時間もありました。撮影ではテンポよく指しますが、実際は何分も熟考してから指すので、張りつめた空気の中での無音の緊張感を体感できたことは役作りの助けになりました。

-奨励会を経ずにプロになった気鋭の将棋棋士・桂介の人物像をどう捉えましたか。

 自分の考えや感情を表に出さないこともあり、普通に生活していても地面からちょっと浮いているような異質な感じを受けました。でも、親からの真っすぐな愛情を受けられない過酷な幼少期がありながらも、一歩ずつ前に進んで、ちゃんと生きている姿は格好いいと思いました。自分だったらくじけてしまうかも…。

-演じる上で意識したことはなんでしょうか。

 いつでも役に寄り添う気持ちをもっていますが、今回は特にそれが強かった気がします。桂介は感情的な人間ではないけれど、お父さん(渋川清彦)から過去の真実を告げられて感情をあらわにする場面では、撮影が終わってからも涙がずっと止まらなくなりました。役に対して客観視できないぐらい、のめり込んでしまう経験は初めてでした。

-せりふが少ないため、表情での演技も重要だったように思いますが。

 そうですね。表情で訴えかける部分が多かったです。対局中の盤上に次の一手を教えてくれるひまわりが浮かんで見えるシーンでも、実際には存在しないひまわりを感じながら演じなければいけないので難しかったです。

-桂介が盤上にひまわりを見るように、千葉さんも人知を超えた力を感じるときはあるのでしょうか。

 あまり言うと心配されそうですけど、たまに覚醒されて「自分じゃない」と感じたり、撮影中の記憶がなくて、終わってから「どうしたんだろう…」と不思議に思ったりすることがあります。でも、「カメレオン俳優」とか「憑依型俳優」とか言われる方がいますが、私がそうという意味ではないです。僕なんて末端の役者なんで、「無我夢中」みたいな軽いテンションです(笑)。

-シリアスな作品で、これまでの千葉さんが演じられてきた役のイメージとは異なるキャラクターですが、演じる上での心構えはこれまでとは違いましたか。

 コミカルな役やかわいい役が多く、僕自身にもそういう印象を持っている方が多いので、周りの人からは「新境地ですね」とよく言われますが、「新境地」と大げさに捉えず、いつものように、キャラクターを大事に、丁寧に演じました。ただ、頑張った現場ではあったので鍛えられた感じはします。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

寺西拓人 声優初挑戦は「とても刺激的で楽しい経験でした」 「マクロス」、「アクエリオン」シリーズの河森正治監督の長編アニメーションに出演『迷宮のしおり』【インタビュー】

映画2025年12月30日

 2026年1月1日全国公開となる『迷宮のしおり』は、「マクロス」、「アクエリオン」シリーズなどで知られる河森正治監督初のオリジナル長編アニメーションだ。  引っ込み思案な女子高生・前澤栞(声:SUZUKA(新しい学校のリーダーズ))は、親 … 続きを読む

織山尚大、芸能活動10周年を迎え「今のこの年齢で演じる意味がある」 舞台「エクウス」で3年ぶりの主演【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年12月29日

 映画『うちの弟どもがすみません』やドラマ『リベンジ・スパイ』など、数々の映画やドラマ、舞台で活躍する織山尚大の3年ぶりの主演舞台となる「エクウス」が1月29日から上演される。本作は、実際に起きた事件を基に描かれた、ピーター・シェーファーに … 続きを読む

【映画コラム】「2025年映画ベストテン」

映画2025年12月28日

 今回は、筆者の独断と偏見による「2025年公開映画ベストテン」を発表し、今年を締めくくりたいと思う。 【外国映画】  2025年公開の外国映画を振り返った時に、今年の米アカデミー賞での受賞作は最近の映画界の傾向を象徴するようで興味深いもの … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】家族の情緒が国境を越える、俳優ムン・ソリが語る「おつかれさま」ヒットの理由

ドラマ2025年12月26日

 今年のヒットドラマ、Netflixシリーズ「おつかれさま」。子どもから親へと成長していく女性の人生とその家族を描き、幅広い世代から支持され大きな話題を呼んだ。IU(アイユー)との二人一役で主人公エスンを演じたムン・ソリに、ドラマの振り返り … 続きを読む

田中麗奈「こじらせ男の滑稽で切ない愛の行方を皆さんに見届けていただきたいと思います」『星と月は天の穴』【インタビュー】

映画2025年12月24日

 脚本家としても著名な荒井晴彦監督が、『花腐し』(23)に続いて綾野剛を主演に迎え、作家・吉行淳之介の同名小説を映画化した『星と月は天の穴』が12月19日から全国公開された。過去の恋愛経験から女性を愛することを恐れながらも愛されたい願望をこ … 続きを読む

Willfriends

page top