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天下泰平の江戸中期。たった一つの失言が藩主の逆鱗(げきりん)に触れ、長岡藩・勘定方書き役から、“ノミ取り”稼業に左遷された小林寛之進。それは、“猫のノミ取り”というのは建前で、実態は女性に愛のご奉仕をする“添寝業”だった。果たして、“ノミ取り”稼業に精を出すことになった寛之進の運命は…? 阿部寛主演『のみとり侍』のBlu-ray&DVDが11月7日にリリースされる。脚本・監督を担当したのは、『後妻業の女』(16)の大ヒットも記憶に新しい名匠・鶴橋康夫。小松重男の短編集を巧みな脚色で見事な喜劇に仕上げた本作に込めた思いを聞いた。
長いサラリーマン生活を辞めて、もう15年ぐらいたちます。名刺も肩書もなくなり、どうやって生きていこうかと考えたら、組織とは何だったんだろうと、急に思えてきました。そんな時、小松重男さんの原作を読んだら、その登場人物たちが僕にはとてもいとおしく感じられたんです。
表題作の「蚤とり侍」では、長岡藩の勘定方だった小林寛之進がうっかり殿さまの怒りを買って、“のみ取り”にされてしまう。「唐傘一本」では、小間物問屋の娘婿だった清兵衛が、浮気がバレて妻に追い出され、一物にまぶしたうどん粉を落としながら街を歩くことになる。さらに、貧乏長屋で子どもたちに読み書きを教えて細々と暮らす落ちぶれた武士の佐伯友之介が登場する「代金百枚」。彼らは全員、今までの居場所を失くしている。そういう意味で、僕と同じ種類の人間だと感じたんです。
彼らのように軽んじられた人間を“へそ者”と呼びます。へそは、生まれるまでは母親とつながる唯一の生命線で、大事なものですが、生まれた後は不要な穴でしかない。そういう“へそ者”たちに対する愛情が、僕は他の人より強いんでしょうね。
その通りです。僕はテレビやドラマの監督という仕事をしていますが、近所の人から「本当に監督なの?」と言われるような地味な生き方をしてきた人間。だから、そういうものが通奏低音としてにじみ出てしまうんでしょうね。
小松重男さんの小説を何冊か読むと「こんなあめ売りがいました」、「こんなノミ取りがいました」、「こんな相撲取りがいました」というふうに、江戸の町で生きたいろいろな人たちのことが書かれています。その様子が非常に生き生きとしていて、そういう部分は、この作品にもしっかり取り入れたつもりです。でも、今の日本にだって、生き生きとそれぞれの人生を生きている人たちはいっぱいいる。この作品に登場する江戸の人々のたくましさは、現代に生きる人たちにも共感してもらえるはずです。
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