「『西郷を主役として見ない』が、僕のテーマだった気がします」青木崇高(島津久光)【「西郷どん」インタビュー】

2018年11月4日 / 20:50

 これまで事あるごとに西郷隆盛(鈴木亮平)と対立してきた薩摩の国父・島津久光。その一方で、西郷が家老に出世した後はその意見に耳を傾ける度量も示し、単なる憎まれ役とはいえない魅力を放ってきた。明治新政府の中心で活躍する西郷と久光の対面を描いた第41回は、そんな2人の集大成とも言えるエピソードとなった。物語が終盤に近づく今、第1回から久光を演じてきた青木崇高が、その思いを語ってくれた。

島津久光役の青木崇高

-第41回は、久光がこれまで嫌っていた西郷を激励する場面が印象的でした。

 あのシーンは難しかったです。亮平くんはもちろん、演出の方とも何度も話し合いました。それぞれの思いがある上に、このドラマが進む方向を踏まえて、どこまで本音を言えばいいのか…。さらに、ここまで見てくれた視聴者の目線も育ってきているので、そこにピリオドを打つのか、それとも余白を作って考えさせるような終わり方がいいのか…。いろいろと悩みましたが、最終的には、現場で話し合う中で湧き上がってくるものを大切にしました。

-同じ回で、廃藩置県に怒った久光が、一晩中花火を打ち上げたという有名なエピソードも再現されていました。

 うれしかったですね。最初にお話を頂き、久光公について調べたときから気になっていたんです。とても素晴らしいお話で、なんて魅力的な人なんだろうと。これだけで演じるモチベーションが決まるというぐらい、グッときたエピソードでした。最初は、花火のシーンがあるかどうか分からないということだったので、実現して本当にうれしかったです。ここまでやってきた自分へのご褒美です(笑)。

-西郷と何度も対立してきた久光ですが、劇中における役割をどう考えていましたか。

 このドラマはまず西郷という存在があり、久光の人生はその目線で語られるもの。そういう意味で、西郷を中心にした世界の、できるだけ端の方にいたいと考えていました。そこにしっかり存在感を残すことが、このドラマの幅を広げることにつながる。それが久光の役割ではないかと。だから、「嫌われる」という心情的な距離感はもちろんですが、地理的にも江戸や京など、いろいろな土地で活躍する西郷に対して、薩摩から動かないのが久光。そういうふうに西郷に寄り添わないキャラクターとして存在することで、物語や世界観をより大きく見せることができるだろうと。

-2人の関係についてはいかがでしょうか。

 劇中では「西郷を嫌っている」という部分にフォーカスされていましたが、それはあくまでも点に過ぎません。久光は「西郷が嫌い」という理由で行動していたのではなく、藩の実権を握る者として、激動の時代の中で薩摩がいかに生き残るかを考えていたわけですから。藩を船に例えるなら、家臣が勝手なことをすれば事故につながりかねず、下手をすれば沈んでしまう可能性もある。だから、指示に従わない者に対して厳しく当たるのは当然です。そういった意味で僕自身、西郷のことはあくまでも1人の家臣と考えていました。物を言ってくることが多かったので、感情的に接する場面が目立っただけで…。

-西郷との距離感で気を付けたことは?

 「西郷どん」というタイトルで主人公・西郷隆盛がいると、役者は当然のように彼をヒーローと認識し、距離を詰めてしまう恐れがあります。ただ、当時の久光の立場で考えてみたら、単なる家臣の1人でしかなく、後にそんな大人物になるとは思っていないわけです。だから、最初の頃の離れた距離感は大切にしたいと思っていました。後に頭角を現していくのであればなおさらです。そうすることで、「嫌いだけど、こいつを使わないと仕方ない」と、才能を認めて距離を詰めていく過程も生きてくる。言ってみれば「西郷を主役として見ない」が、今回の僕のひとつのテーマだったような気がします。亮平くんには申し訳ありませんが(笑)。

-それと同時に、「人の好さ」も久光の魅力につながっていたように感じます。例えば、幕末の有力者たちが集まった四候会議で、徳川慶喜(松田翔太)にうまくあしらわれてしまった場面などが好例です。そのあたりは、どう考えていましたか。

 例えば、自信満々に歩いている途中で“すってんころりん”と転んだときでも「ざまあみろ」だけでなく、「ざまあみろ(でもちょっとかわいいな)」と思われるようなキャラクターにしたいとは思っていました。主人公だけでなく、対立するキャラクターにも「頑張ったのに…」、「気の毒だな…」と気持ちが入るようになると、見え方が変わって物語の深みが増しますから。だから、「どこか憎めない」と感じていただけたのなら、うれしいです。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

生田斗真が驚きの一人二役!「最初から決まっていたわけではありません」制作統括・藤並英樹氏が明かす舞台裏【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月8日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。謎の絵師“写楽”が、蔦重の下で歌麿(染谷将太)ら当 … 続きを読む

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(8)百年ぶりの復活へ 四代目が掲げた三つの大願

舞台・ミュージカル2025年12月4日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。    2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

Willfriends

page top