【インタビュー】『君が君で君だ』満島真之介「尾崎豊の歌の力が、この映画を調和させている」

2018年7月7日 / 16:28

 尾崎豊、ブラッド・ピット、坂本龍馬。自分の名前を捨て、好きな女の子が好きな男に成り切り、10年間、一つの部屋でひそかに彼女を見守り続けた3人の男たち。だがある日、彼女に借金返済を迫る借金取りが彼らの前に現れたことから、平穏だった3人の日々は大きく揺り動かされていく…。話題のドラマ「バイプレイヤーズ」シリーズなどを手掛けた松居大悟が自ら監督・原作・脚本を務めた異色のラブストーリー『君が君で君だ』が7月7日から公開された。本作で“ブラピに成り切る男”を演じた満島真之介が、作品誕生の舞台裏を明かしてくれた。

“ブラピに成り切る男”を演じた満島真之介

-ストーカーともいえる男たちを主人公にした異色の作品ですが、最初に台本を読んだときの印象は?

 全く共感できなかったです。かなり客観的に読みました。こんなに客観的にならないと読めない脚本もなかったぐらいで…。尾崎豊の…という話だったのに、全然違うじゃないかと。でもその一方で、今はものを作るとき、ターゲットを意識してその枠にハマるようなジャンルやテーマばかりを選びすぎて、衝撃的なものが全くといっていいほどない時代。そんな中で、こうやって自分の中に渦巻いている愛情みたいなものを表現する松居さんのやり方については、一理あるなと。

-と言うと?

 彼らはひたすら1人の女の子を見守っているわけですが、それを“ストーカー”と呼ぶかどうかは言い方の問題。正直、僕は相手が女の子でなくてもいいんじゃないかと思ったんです。人が人を愛するということでいえば、孤独死しそうなおじいちゃんを見守っている、でもよかったかもしれない。でも、それだと松居さんの作品ではないし、映画にもなりにくい。要するに、今まで何人もの哲学者が愛について語ってきたけれど、それぞれ違ったことを言っていて、正解はない。これもそういうものの一つじゃないかと。だから、僕自身は共感できないけど、一つの愛の形としてはあるのかもしれない。そう思いました。

-そこからお芝居はどのように作って行ったのでしょうか。

 まず、監督と話をしました。監督が生みだしたものなので、松居さんと共通認識を持たないと、それぞれが思う愛の表現が出てしまい、何だか分からなくなる。だから、まずは同じフィールドに立ちたいと思って、池松(壮亮/尾崎豊に成り切る男)くんと大倉(孝二/坂本龍馬に成り切る男)さんと僕と松居さんの4人で何度か話し合いをしました。

-どんなことを?

 ざっくばらんなことです。僕らは「全然共感できないな…」と思っていることに対して、松居さんは「いや、これは普通じゃない?」と言ったり…。そういうお互いの違いを認め合う作業を経て、映画に対する愛が生まれていきました。その後に、僕らが見守るヒロイン役のキム・コッピちゃんも加わって何日かリハーサルをやり、向かうべき場所に一筋の光が見えるぐらいまで準備をして。それから撮影に入りました。変に自分1人で考え込んで、「これはストーカーなのか?」みたいなディテールを追い駆けると正解はない。だから、みんなで歩いたあの時間は、僕にとってとても重要でした。

-その話し合いやリハーサルには、時間をかけたのでしょうか。

 かなりやりました。深い話も出たので、台本もどんどん変わっていきました。リハーサルでも、3人の10年の関係性についていろいろな話が出たり…。松居監督も、舞台でずっとやってきて、ようやく映画になった題材だったので、台本を手放すのが早かった。全部自分の中にあるから。そうすると、リハーサルを真剣に見てくれるわけです。おかげで、料理をするような感じで、「この隠し味入れた方がいいね」みたいなアイデアをみんなで出し合うことができて、チームが一つになっていった。それも大きかったです。

-舞台に近い感じですね。

 恐らく、松居さん自身の作品の作り方の原点が舞台だからでしょう。その中で何度も松居さんと組んできた池松くんがリーダー格でいるという3人の関係性も、とてもバランスが良かった。

-そういう時間を経て、最終的には共感できるように?

 内容に共感は、やっぱりできませんでした。だけど、一理ある。つまり、女の子がどうとかいうことは別にして、彼らのその思いというのは、どこにあるんだろうと。そういうことを感じたので、逆に自分に問い掛けたんです。「僕は僕自身の思いで生きているのか?どうなんだ?」と。そこで尾崎豊の歌が入ってくる。「僕が僕であるために、勝ち続けなきゃならない」。だから「彼らは勝ち続けられたのか?実は負け犬だったんじゃないのか?」「でも、こうして続けていることで勝ちを見出しているかもしれない…」と。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

河合優実「少しでも戦争について考えるきっかけになれば」戦争で大切な人を失った蘭子役への思い 連続テレビ小説「あんぱん」【インタビュー】

ドラマ2025年5月21日

 NHKで好評放送中の連続テレビ小説「あんぱん」。『アンパンマン』を生み出したやなせたかしと妻・暢の夫婦をモデルに、何者でもなかった朝田のぶ(今田美桜)と柳井嵩(北村匠海)の2人が、数々の荒波を乗り越え、“逆転しない正義”を体現した『アンパ … 続きを読む

稲垣吾郎、ハリー・ポッター役で「新しい風が吹かせられれば」 舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月21日

 稲垣吾郎が、現在、ロングラン上演中の舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」にハリー・ポッター役で出演する。本作は、小説「ハリー・ポッター」シリーズの作者であるJ.K.ローリングらが、舞台のために書き下ろした「ハリー・ポッター」シリーズの8作目 … 続きを読む

二宮和也「子どもたちの映画館デビューに持ってこいの作品です」『シナぷしゅ THE MOVIE ぷしゅほっぺダンシングPARTY』【インタビュー】

映画2025年5月17日

 テレ東系で毎週月~金、朝7時30分から放送中の乳幼児向け番組「シナぷしゅ」の映画化第2弾。番組のメインキャラクター「ぷしゅぷしゅ」と相棒「にゅう」が、バカンスで訪れた「どんぐりアイランド」を舞台に繰り広げる冒険をオリジナルストーリーで描き … 続きを読む

【週末映画コラム】異色ホラーを2本 デミ・ムーアがそこまでやるか…『サブスタンス』/現代性を持った古典の映画化『ノスフェラトゥ』

映画2025年5月16日

『サブスタンス』(5月16日公開)  50歳の誕生日を迎えた元人気女優のエリザベス・スパークル(デミ・ムーア)は、容姿の衰えによってレギュラー番組を降ろされたことから、若さと美しさと完璧な自分が得られるという、禁断の再生医療「サブスタンス= … 続きを読む

新原泰佑、世界初ミュージカル化「梨泰院クラス」に挑む「これは1つの総合芸術」【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年5月16日

 世界中で大ヒットを記録した「梨泰院クラス」が、初めてミュージカル化される。主人公のパク・セロイを演じるのは小瀧望。日本・韓国・アメリカのクリエーターが集結し、さまざまな人種が混じり合う自由な街・梨泰院で権力格差や理不尽な出来事に立ち向かう … 続きを読む

Willfriends

page top