香川照之「僕の中では6人全員にモデルがいました」「連続ドラマW 災」【インタビュー】

2025年4月4日 / 08:00

-なるほど。

 でも、同一性というのは非常に厄介で、これは本当に同じ人なのかという疑問を持つわけです。本当は同一人物じゃないけど、それをメタファーとして見せているだけなのかもしれないし、もっと高尚に考えれば、その存在自体が本当にいるのかどうかすら分からない。災いが起きる人だけに見えている存在で、ほかの人には見えていないということなのかとか、いろいろと考えられる。台本では「あの男」という役だけど、彼は何が好きで、どういう学校を出て、本当はどういう職業をしていて…とかが一切書かれていないんですけど、こういうふうに役をちりばめた時に、橋渡しをした方が表現としても分かりやすいんじゃないかなと。だから、それを見つけた時はうれしかったし、監督たちがそれを受け入れてくれたのもうれしかったです。

-脚本を読んで、6役をイメージしていく作業は大変だったのではないですか。

 それほど大変ではないです。断片をつなげば割と簡単なんです。どういう人でやるかというのをまず決めて、その人がおかしな行動をしてるということ。だから、そのおかしな行動の部分は別に考える必要はなくて、普段どういう生き方をしているのかを考えます。バックグラウンドというか、どういう髪形で、どういう服を着ていて、どんな趣味で、何時に起きて、何を食べてみたいな。そこは実際には出てこないですけど、それを決めれば難しくはないですね。

-6役を演じ分けたコツがあれば。

 僕の中では6人全員にモデルがいるんです。いろいろと考えてモデルを見つけて、その人の物まねをずっとしていた感じです。1話と2話は現場で誰の物まねかを発表したんです。でも、3話、4話あたりはもう僕しか知らない人で、4話は昔の無名の俳優さん。6話だけ“香川照之という俳優”でやったつもりです。自分でせりふを覚えているうちに、この役だったらこう言いたいなという人を引っ張り出すんです。そういうしゃべり方をしていた人がいるんですよ。それで、その人の特徴などを考えるとぴったりな感じだと思いながら、全話スルスルっと出てきたので、僕の台本にはその人たちの名前が書いてあります。

-このドラマの見どころは?

 さまざまな映画のオマージュカットも取り入れながらも、解決しない上にスカッともしないという新たなスタンスを、関さんと平瀬さんという2人の監督が勇猛果敢に提示するというのが、このドラマの見どころだと思います。でも、それに対して「何じゃこりゃ」という方もいれば、「これがいいね」という方もいるし、「さっぱり分からん」という方もいれば、「これは自分自身だ」という方もいらっしゃる。そういうことでいいと思うんです。ドラマの新しい裾野が広がっていることの一例だと思うし、不思議な魅力がある。それはこの5月のユニットがいつも提示するもので、そこは信頼できます。

-最後に視聴者や読者に向けてメッセージをお願いします。

 解決する部分やスカッとする部分がなくて混沌(こんとん)としているドラマなので、本当に視聴者の方の判断に委ねるところが大きいと思います。こちら側が与えているわけではなくて、見る側が判断していくという形は、やはり今の時代の流れなのかなと思います。新しいドラマを提示してみますので、ぜひ見てみてもらってもいいでしょうかという感じですね。

(取材・文・写真/田中雄二)

(C)WOWOW

  • 1
  • 2
 

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

ラミ・マレック、レイチェル・ブロズナハン「主人公はいわゆるスパイスリラーには出てこないようなキャラクター」『アマチュア』【インタビュー】

映画2025年4月11日

-『ナイト ミュージアム』(06)のアクメンラー王、『ボヘミアン・ラプソディ」(18)のフレディ・マーキュリー。そして今回のチャーリーは全く別種の役柄ですが、演じ分けのコツのようなものはありますか。 ラミ 『ナイト ミュージアム』はロビン・ … 続きを読む

【週末映画コラム】ユニークなアクション映画を2本 暗殺者と静かな村人という二重生活を送る男『プロフェッショナル』/アクションサスペンスなのに主人公が“へたれ”『アマチュア』

映画2025年4月11日

『アマチュア』(4月11日公開)  内気な性格で愛妻家のチャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)は、CIA本部でサイバー捜査官として働くデスクワーカー。最愛の妻サラ(レイチェル・ブロズナハン)と共に平穏な日々を過ごしていたが、無差別テロ事件で妻 … 続きを読む

ロバート・ロレンツ監督「ビッグスターでありながらこういう映画に出演し続けるリーアム・ニーソンは希有な存在」『プロフェッショナル』【インタビュー】

映画2025年4月10日

-監督が長く一緒に仕事をしているクリント・イーストウッドとリーアムとの類似点はありますか。  コラボレーションに関しては、クリントから学んだことが多いです。彼は、全てをマネジメントしようとはせず、むしろ他の人がどんなアイデアを持っているのか … 続きを読む

朝ドラ「ばけばけ」クランクイン!主演の髙石あかりは「良さが発揮されている」制作統括が語る撮影の舞台裏

ドラマ2025年4月10日

 4月9日、2025年秋からスタートするNHKの連続テレビ小説「ばけばけ」の取材会が行われ、制作統括を務める橋爪國臣氏が、3月25日にクランクインした現場の様子などを語ってくれた。  「ばけばけ」は、「怪談」で知られるラフカディオ・ハーン( … 続きを読む

長尾謙杜「僕らの距離の縮め方が、役とリンクした」當真あみ「長尾さんは現場を明るく盛り上げてくれました」切ないラブストーリーで初共演『おいしくて泣くとき』【インタビュー】

映画2025年4月7日

-この作品は長尾さんの劇場映画初主演作ですが、その点について意識したことはありますか。 長尾 特別に意識したことはなかったです。安田顕さんを始め、キャストの皆さんは先輩方が多かったですし、スタッフの皆さんも、僕より年齢も経験も上の方ばかりで … 続きを読む

Willfriends

page top