「時代劇には無限の可能性があると思います」『碁盤斬り』白石和彌監督【インタビュー】

2024年5月17日 / 15:10

 身に覚えのない罪をきせられ、故郷の彦根藩を追われ浪人となった柳田格之進(草なぎ剛)は、娘のお絹(清原果耶)と江戸の貧乏長屋で暮らしていた。そんなある日、旧知の藩士からかつての事件の真相を知らされた格之進は復讐(ふくしゅう)を決意する。古典落語の「柳田格之進」を基に、白石和彌監督が初めて時代劇のメガホンを取った『碁盤斬り』が、5月17日(金)から全国公開された。公開を前に白石監督に話を聞いた。

白石和彌監督 (C)エンタメOVO

-今回が初めての時代劇ですね。ずっと時代劇を撮りたいと思っていたとのことですが、実際に撮ってみていかがでしたか。

 もう楽しいことしかなかったです。当然難しいこともありましたが、やっぱり実際にやってみないと、自分に何が足らないのか、今の日本映画界で時代劇を作る時に何ができて何ができなくなっているのか、そういうことは当然分からないので、やってみていろいろな発見があったという感じです。

-この映画の基は「柳田格之進」という落語で、脚本が加藤正人さん。今回は脚本ありきというところがあったのでしょうか。

 そうですね。加藤さんは囲碁好きで、死ぬまでに囲碁の映画を形として残したいという野望があって(笑)。仲間と一緒に飲んでいた時に、それだったら「柳田格之進がいいじゃないですか」と聞き直して、やっぱりこれだとなったらしいんです。ただ、落語のままだといろいろと話が足りない。だから、復讐の話とか、若者たちの恋愛とか、エンターテイメントとしていろんな要素を入れて。脚本になる前のプロットを読んでみてと言われた時は、大体今の形になっていました。

-実際にそれを映画にしていったわけですが、いかがでしたか。

 まあストーリーは面白いんですけど、やっぱり囲碁が難しいんです。僕は簡単なルールを知っているぐらいですが、将棋もチェスも相手の駒を取ってなんぼじゃないですか。囲碁も石を取る瞬間はあるんですけど、ぱっと見どちらが優勢なのかが分かりづらい。それを映画の中にどう落とし込むのかということをめっちゃ考えました。それで、ギャラリーに解説をさせるというところにたどり着きました。スポーツの実況みたいに、「ここは攻めだ」とか「分かんねえな」とか言わせたりして。脚本にも1回マックスで解説を入れてもらって、あとは足したり引いたりしながらやっていきました。

 また、落語だとやっぱりキャラクターが一面的になって、源兵衛(國村隼)もただのいいおじさんみたいな感じです。それを、憎まれている源兵衛が格之進と囲碁を打つことで、美しい魂に触れて優しくなっていく感じにしました。キャラクターを掘り下げたり、ニュアンスをちょっと変えるだけで、人物の奥行きが変わっていくので。

-この映画は、前半が人情話というか、ちょっとほのぼのとした感じです。それが後半の復讐劇に入ってからは、陰惨な感じに転調していきますが、そこは意識しましたか。

 とても意識しました。動と静とまでは行かないまでも、やっぱり転調してから映画の味が変わる感じにしたいと思っていました。なので、前半はできるだけ静かにしておいて、急激な変化が訪れるお月見の日を境に、話が急に変わるようにしました。だから後半は、時代劇というよりは、西部劇のように、復讐のために宿敵を追い駆けていくみたいな感じに見えるといいなと思いながらやっていました。

-格之進役の草なぎ剛さんですが、また新しい姿を見た気がしました。例えば、山田洋次監督の『たそがれ清兵衛』(02)の真田広之さんに通じるものがあると思いました。

 そう言ってもらえるとうれしいです。草なぎさんが普通に自然に、難しいことを考えずにやらせてくれたので、とてもやりやすかったのと、後半、転調してからは、さっき西部劇って言いましたけど、そこからはもう無精ひげにはなるわ、月代(さかやき)も伸ばしっ放しになるわで、どこをどう歩いてきたのみたいに汚れているんですけど、そんな草なぎさんを見て、「僕は汚い侍を撮りたかったんだ」ということに気付かされました。その瞬間、先々の映画の企画についてのインスピレーションが湧いたりもしました。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

【映画コラム】映画は原作を超えたか 沖縄の現代史を背景に描いた力作『宝島』/純文学風ミステリーの趣『遠い山なみの光』

映画2025年9月18日

『宝島』(9月19日公開)  1952年、米軍統治下の沖縄。米軍基地を襲撃して物資を奪い、困窮する住民たちに分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。  村の英雄でリーダー格のオン(永山瑛太)と弟のレイ(窪田正孝)、彼らの幼なじみ … 続きを読む

【Kカルチャーの視点】レジェンドたちの「朝鮮の旅」たどった写真家の藤本巧さん

2025年9月18日

 朝鮮の文化を近代日本に紹介した民藝運動家の柳宗悦や陶芸家の河井寛次郎。彼らが1930年代に見た朝鮮の風景に憧れ、1970年に韓国の農村を訪れたのが写真家の藤本巧さんだ。以来50年以上にわたり、韓国の人々と文化をフィルムに刻み続けてきた。 … 続きを読む

エマニュエル・クールコル監督「社会的な環境や文化的な背景が違っても、音楽を通して通じ合える領域があるのです」『ファンファーレ!ふたつの音』【インタビュー】

映画2025年9月18日

 世界的なスター指揮者のティボ(バンジャマン・ラべルネ)は、突然白血病を宣告され、ドナーを探す中で、生き別れた弟のジミー(ピエール・ロタン)の存在を知り、彼の隠れた音楽的な才能にも気付く。兄弟でありながらも異なる運命を歩んできた2人。ティボ … 続きを読む

前田旺志郎「世の中に関心を持つ大切さに気付いた」窪塚愛流「止まっていた時間が動き出した」初共演の2人が福島原発事故を題材にした映画で感じたこと『こんな事があった』【インタビュー】

映画2025年9月16日

 東日本大震災から10年後の福島を舞台に、原発事故で引き裂かれた家族と青春を奪われた若者たちの姿を描いた『こんな事があった』が9月13日から全国順次公開中だ。監督・脚本は、『追悼のざわめき』(88)などで日本のみならず世界の映画ファンから支 … 続きを読む

グイ・ルンメイ、真利子哲也監督「お互いが思い合うからこそすれ違う。でもそこには愛があるという家族の形を描きたかった」『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』【インタビュー】

映画2025年9月12日

 ニューヨーク・ブルックリンで暮らすアジア人夫婦を主人公に、息子の誘拐事件をきっかけに夫婦の秘密が浮き彫りとなり家族が崩壊していく姿を、全編NYロケで描いた『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、9月12日から全国公開され … 続きを読む

Willfriends

page top