「原作を読み始めたときから、岡田准一ありきという感じでした」 セクシーな男同士の三角関係劇 映画『ヘルドッグス』原田眞人監督【インタビュー】

2022年9月12日 / 07:00

 深町秋生の小説『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を基に、原田眞人監督が映画化した『ヘルドッグス』が、9月16日から公開される。本作は、復讐(ふくしゅう)を糧に生きる元警官の兼高(岡田准一)が、やくざ組織への潜入捜査をする中で、制御不能の室岡(坂口健太郎)とタッグを組んで、組織内でのし上がり、やがて組織のトップ十朱(MIYAVI)のボディーガードとなるが…というストーリー。原田監督に、映画に込めた思いや、3度目の顔合わせとなった岡田について聞いた。

原田眞人監督 (C)エンタメOVO

-監督の映画には、原作の大胆な改変がよくみられますが、今回も原作からはかなり離れているのでしょうか。

 ベースは同じです。主役の兼高と十朱、そして室岡という3人の絡みは、基本的には原作の流れを踏襲しています。それと同時に、原作との一番大きな違いは、原作はやくざ組織に関する情報量が多いので、それをどれだけ簡略化して、映画として必要な情報として観客に与えられるかを考えながら脚色したところです。ただ、原作者の深町さんが、ちょうど原作の設定を大胆に変えたリングの場面を撮っているときに、撮影現場にいらしたんですが、撮影自体を楽しんでくれて、見終わった後も、原作と違う部分を喜んでくれました。そういう意味では、原作のエッセンスをなるべく残すことには苦労しましたが、そのかいはあったと思いました。

-兼高役の岡田准一さんは、『関ヶ原』(17)『燃えよ剣』(21)に続く起用です。今回は、前2作の実在の悲劇のヒーロー的な人物とは全く違うダークヒーロー役ですが、今回も彼を起用した理由は?

 『関ヶ原』『燃えよ剣』と、時代劇での彼の身体能力の高さは分かっていたし、互いに、今度は現代劇でやりたいという思いがありました。だから、今回原作を頂いたときに、僕の中では、岡田さんが主役というイメージしかありませんでした。それで、岡田さんが兼高なら、その周りはどういうキャストにしようかと考えながら読んでいました。それから、彼が兼高をやることによって、彼の武術も使えるので、アクションコーディネートも任せられると。ですから、原作を読み始めたときから、岡田准一ありきという感じでした。

-室岡役の坂口健太郎さんも、十朱役のMIYAVIさんも、これまでのイメージとは違う役柄というのが、見ていて面白かったのですが、今回、2人を起用した理由を教えてください。

 室岡の場合は、ある意味、兼高との男同士のラブストーリーみたいな要素があるので、兼高とは雰囲気が違って、意外性のある、これまで岡田さんとは共演したことがない若い役者で、身体能力も高くて…、そういう人は誰かと。健太郎のことはよく知らなかったのですが、取りあえず会ってみようと。ところが、会ったその場で決まったという感じでした。彼の話し方も感性もとても好きでしたし、何より知的な感じがしました。それで、これなら化けられるだろうと。役者と会ったときに、だいたい第一印象で、行けるか行けないかはピンときます。今回も、『クライマーズ・ハイ』(08)で堺雅人をキャスティングしたときと同じように、何かカチッとくるものがありました。

 MIYAVIの場合は、アンジェリーナ・ジョリーの『不屈の男 アンブロークン』(14)で熱演しているのを見て、すごくいいものを持っていると思い、ずっと心に引っかかっていました。今回は、タイプの異なる3人のセクシーな男たちをそろえたいと思ったので、最初から、これこそMIYAVIにちょうどいい役だなと思いました。彼も脚本を読んですぐに乗ってくれました。今回は、メインの3人が割とスムーズに決まったのが大きかったです。

-今回は、『東京暗黒街 竹の家』(55)と『地獄の黙示録』(79)といった具合に、監督は、そのとき、意識したり、参考にした映画について積極的に語ってくれます。他の監督には、こうした話題を避けたがる人もいますが…。

 僕は、やっぱり映画ファンとして生きているので(笑)、コンスタントに昔の映画も見るし、今の若い世代に、「こういう映画を見てほしい」と、前の世代の映画を語り継ぐことも必要だと思っています。そうした要素を少しずつでも自分の映画に入れたいとも考えています。今回も、『東京暗黒街 竹の家』は、公開当時、日本では国辱映画といわれて、お世辞にも傑作とは言えないけれど、当時の日本のストリートロケーションを多用して、ああいう犯罪映画を作ったというエッセンスみたいなものを、この映画から感じ取ってほしいというのがあったし、監督のサミュエル・フラーとは何度も会っているので、彼へのオマージュみたいなところもあります。また、原作を読んでいるときに、3人の主役の、男同士の三角関係という点で、『東京暗黒街 竹の家』を使いたいという意識が、自然に出てきたというのも大きいです。十朱はあの映画のロバート・ライアンだと。だから、どうしても十朱のビルの1階はパチンコ屋でなければならないと(笑)。

 
  • 1
  • 2

特集・インタビューFEATURE & INTERVIEW

板垣李光人「最初から、戦争を考えて見るのではなく、実際に見て感じたことを広めていっていただければ、それが一番うれしいです」『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』【インタビュー】

映画2025年12月5日

 戦争がもたらす狂気を圧倒的なリアリティーで描き、第46回日本漫画家協会優秀賞を受賞した武田一義の戦争漫画をアニメーション映画化した『ペリリュー ―楽園のゲルニカ―』が12月5日から全国公開された。太平洋戦争末期、激戦が繰り広げられたペリリ … 続きを読む

【物語りの遺伝子 “忍者”を広めた講談・玉田家ストーリー】(8)百年ぶりの復活へ 四代目が掲げた三つの大願

舞台・ミュージカル2025年12月4日

 YouTubeもNetflixもない時代、人々を夢中にさせた“物語り”の芸があった——。“たまたま”講談界に入った四代目・玉田玉秀斎(たまだ・ぎょくしゅうさい)が、知られざる一門の歴史物語をたどります。    2016年に四代目・玉田玉秀 … 続きを読む

多部未華子「学びの多い現場でした」DV被害者役に挑んだヒューマンミステリー「連続ドラマW シャドウワーク」【インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 WOWOWで毎週(日)午後10時より放送・配信中の「連続ドラマW シャドウワーク」は、佐野広実の同名小説を原作にしたヒューマンミステリー。  主婦の紀子は、長年にわたる夫の暴力によって自己喪失し、すべて自分が悪いと考えるようになっていた。 … 続きを読む

森下佳子「写楽複数人説は、最初から決めていました」脚本家が明かす制作秘話【大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」インタビュー】

ドラマ2025年12月1日

 NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、まもなくクライマックスを迎える。これまで、いくどとなく視聴者を驚かせてきたが、第4 … 続きを読む

富田望生「とにかく第一に愛を忘れないこと」 村上春樹の人気小説が世界初の舞台化【インタビュー】

舞台・ミュージカル2025年11月30日

 今期も三谷幸喜の「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」に出演するなどドラマや映画で注目を集め、舞台やさまざまなジャンルでも活躍する富田望生。その富田が、2026年1月10日から上演する舞台「世界の終りとハードボイルド・ワンダ … 続きを読む

Willfriends

page top